
石を投げれば石を投げ返され、銃を撃てば銃を撃ち返される ー その相手が猿だとしたら、いったいどう戦えばいいのでしょうか。吉田薫先生の「さるまね」は、天明の大飢饉に喘ぐ秋田の山村を舞台に、人間の動作を一度見ただけで完全に模倣してくる猿の群れと、猟師一家の攻防を描いたパニックホラーです。武器を手にするほど敵が強くなるという逆説的な仕掛けが、逃げ場のない江戸時代の閉鎖空間で容赦なく作動していきます。
この記事では、猿が銃を覚えた瞬間から最新13巻の現在地までを追いながら、これまでに命を落とした8人の最期、猿の正体をめぐる現時点での答え、そして未回収のまま残されている謎までを順に整理していきます。連載を追いかけている方も、購入を迷っている方も、山深い村で何が起きたのかを一緒に確かめてみてください。
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「さるまね」あらすじ・ネタバレ
作品名:さるまね
作者:吉田薫
出版社:コアミックス(ゼノンコミックス)
ステータス:連載中
巻数:既刊13巻(2026年8月時点)
連載媒体:WEBゼノン編集部
あらすじ ー 見られた瞬間に、知恵が牙へ変わる
物語の舞台は天明三年、東北一帯を未曾有の飢饉が覆っていた時代です。秋田藩領北部の山村・伏影村では、猟師の可畏が狩りの獲物で家族と村人の腹を満たし、他の集落よりはいくらか恵まれた暮らしを保っていました。動物の命を奪うことに躊躇を覚えるほど気の優しい可畏は、獲物の顔つきや動きを一頭ずつ見分けられる、猟師としては珍しい観察眼の持ち主でもあります。
そんな村に、ある日ひとりの男が転がり込んできます。誰とも目を合わせようとしないその男は、山で迷ったとだけ言い残し、何かに怯えたまま口を閉ざしました。男が連れてきたのか、それともただの偶然だったのか ー その夜、村のはずれには招かれざる獣が入り込んでいました。
獣の正体は、人間の動作を一度見ただけで完璧にコピーしてしまう猿の群れでした。石を投げれば投げ返し、刃物を振るえば刃物を奪い、火を使えば火を放つ。生き延びるために人間が絞り出した知恵は、そのまま群れへ伝わって牙に変わり、次の夜には自分たちへ向けられます。逃げ場のない山村で、種と種の境界線を問う攻防が始まりました。
「さるまね」のネタバレあらすじ ー 猿が銃を覚えた経緯と、命を落とした8人の最期
【ネタバレ注意】「さるまね」の最新話まで読む(タップで開きます)
猿が銃を覚えた夜(1〜5巻・伏影村編)
猿の襲撃が始まった夜、可畏の息子である宇陀は、群れを追い払おうとして猟銃で一発の威嚇射撃を放ちます。その一連の動作を屋根の上から観察していた猿は、弾を込めて構え、引き金を引くまでの手順をそっくり覚えてしまいました。銃を手にした猿は村人の吾平の顔面を正確に撃ち抜き、伏影村の惨劇はここから一気に加速していきます。可畏はこれ以上模倣させないために村中の猟銃を壊そうと訴えますが、狩りで生計を立てる頭領のバラタに反対され、村は疑心暗鬼に包まれました。親友を失った喜助は逆上し、猿ごと可畏夫妻を焼き殺そうと小屋に火を放ち、多聞の裁定で村を追放されます。狩猟仲間のアグニはイノシシの解体手順を覚えた猿に包丁を奪われて生きたまま解体され、妻の由良も自宅で群れに襲われて命を落としました。極限の籠城戦のさなか、可畏の妻である水分はトメ婆の家で無事に男の子を出産し、絶望のなかに一点の希望が生まれます。
鳴子の音とともに散った頭領(6〜7巻・村脱出編)
二度の襲撃で村は壊滅状態となり、可畏たちは伏影村を捨てる決断を下します。ところが出発の直前、バラタの娘であるハナが森で怪我をした子猿をひそかに匿っていた事実が発覚し、村人の怒りが噴き出しました。罠へ猿を追い込む作戦では、灯りに使っていた火を奪われた岩太が逆に追い詰められ、罠へ転落して死亡します。バラタを懲らしめるつもりで生け捕りの猿を逃がした重吉も、その猿を横取りした喜助の手にかかりました。囮として村に残ったバラタの妻・ヨリを救うため、可畏とバラタは猿がひしめく村へ引き返しますが、群れは火打石まで使いこなして家屋に火を放ち、退路を炎で塞ぎます。足に怪我を負ったバラタは自らを足手まといと判断し、鳴子を激しく鳴らして村中の猿を一身に引きつけ、家族と仲間を逃がして壮絶な最期を遂げました。
毒団子と毒煙が呼び込んだ崩壊(8〜10巻・阿仁村編)
故郷を脱出した一行は麓の阿仁村へたどり着きますが、そこには同じく猿に村を滅ぼされた鈎掛村の生存者が身を寄せていました。食糧難から両村は激しく対立するものの、鈎掛村の頭領である須佐が土下座までして懇願し、村の統合がなんとか成立します。この混乱に乗じたのが伏影村の老人・義作で、鈎掛村の久延と「いざとなれば伏影村の人間を囮にする」という裏契約を結びました。密談を立ち聞きしたハナは気絶させられて小屋に監禁され、義作はその罪を久延に着せて孤立させます。義作が薬草の知識で作った毒団子は一時的に猿を退けたものの、匂いを嗅ぎつけた大群を村へ呼び寄せる最悪の結果を招きました。物見櫓に残って時間を稼いだ銀蔵は、義作が独断で撒いた毒煙を吸って重傷を負い、櫓ごと猿を葬ろうと火を放ちます。可畏は炎の櫓を登って銀蔵を助け出しますが、自らも毒煙に蝕まれ、須佐が屈辱を飲んで義作に頭を下げ、解毒薬を得てようやく一命を取り留めました。銀蔵は毒の被害から回復できず、そのまま息を引き取ります。
解体される裏切り者と、日本刀を構える群れ(11〜12巻・万内村編)
阿仁村も崩壊し、義作は須佐を猿の餌にして自分だけ逃げようと画策します。しかし親同然に接してきた源にも、身内であるはずの久延にも見捨てられ、最後は人間の解体手順を模倣した猿に首を裂かれ、解体されて無残に食い殺されました。生き延びた可畏たちは、多聞の旧友である彦八を頼って万内村へ向かいますが、彦八は一年前にすでに病死しており、村を実質的に支配する阿久良たちは余所者を一切信用せず、一行を即座に拘束します。この村には追放されたはずの喜助と伊邪凪が潜んでおり、喜助は自分が逃げる時間を稼ぐため、捕獲されていた猿をわざと解き放ちました。その夜に襲来した群れは、どこかで略奪したとみられる日本刀を両手で構え、人間の剣術まで模倣する軍団へと進化を遂げています。拘束を解かれた可畏たちは万内村の住民と共闘し、三つの村が助け合うことで夜通しの襲撃をどうにか凌ぎました。
誘拐された子供と、三つに割れた村(13巻の到達点)
夜が明けても喜助の企みは終わりません。領主のもとへ向かう時間を稼ぐため、喜助は万内村の子供をひとり誘拐してどこかへ隠してしまいます。子供を探すため、一行は先発隊・護衛隊・捜索隊の三つに分かれることになりました。ここで喜助は、休息を挟んでからあえて猿が活発になる夜間に村を出るべきだと提案します。これは村人たちの亀裂を突いた新たな謀略であり、過去のしがらみから他村との助け合いを拒む一部の万内村住民が激しく反発し、人間側の結束は再び揺らぎました。飢えた猿たちはついに人間を単なる食糧と見なし始めており、可畏たちは家族の命を賭けた決戦へと押し出されていきます。
みさきガチ評価・徹底考察

- 人間の知恵がそのまま敵の武器へ反転する「模倣」の仕掛けが独創的で、抵抗するほど追い詰められる構造になっています
- 天明の大飢饉という時代設定が近代的な装備を封じ、火縄銃と刃物だけで戦う逃げ場のなさを徹底させています
- 極限状態で剥き出しになる人間の醜さと、それでも家族を守り抜こうとする姿が同じ画面に置かれ、読後に重い余韻が残ります
- 人間側の内輪もめや身勝手な行動が長く続くため、読み進めるうえで精神的な負荷がかかります
「みさきの総評」 ー 奪われる知恵、守られる家族。天明の闇で問われる、人間だけの武器
抵抗するほど敵が強くなる絶望と、それでも誰かを守ろうとする意志が交錯する重厚なホラーです。
模倣する猿が突きつける、知性という武器の危うさ

(ゼノン編集部 https://comic-zenon.com/episode/3270296674373050415 より引用)
この作品が並のパニックホラーと違うのは、襲ってくる猿が人間の写し鏡として描かれている点です。読者は物語を追ううちに、道具を持つことが本当に優位なのかという問いを何度も突きつけられます。ここでは、多くの読者が引っかかっている3つの論点を順に見ていきます。
猿の正体は、13巻時点でも明かされていない
読者が最も知りたがっているのは、なぜ猿がこれほど正確に人間を真似られるのかという一点でしょう。作中で彼らは投石から解体、猟銃の装填と射撃、火打石による放火、そして日本刀の剣術までを次々に覚えていきます。生物学的な突然変異なのか、外部から何かが持ち込まれたのか ー 13巻の時点では、その答えは提示されていません。
ただし、彼らの能力には明確な線引きがあります。猿は新しい武器を自分で発明することはなく、あくまで見たものをコピーするだけです。ゼロから創り出しはしないが、目にしたものはすべて奪う。この一点に絞られた設定が、得体の知れなさを濃くしています。
もうひとつ見逃せないのが、伊邪凪の存在です。彼は伏影村へ逃げ込んできた時点で、すでに「奴らに見られたら終わりだ」と猿の性質を知っていました。なぜ事前に知り得たのか、彼が何者なのかという問いは、猿の起源そのものと同じ位置に置かれたまま残されています。
なぜ読者はここまで登場人物に苛立つのか
レビューを追っていくと、猿への恐怖よりも人間側への苛立ちを訴える声のほうが多いことに気づきます。ハナの優しさが脱出計画を狂わせ、宇陀の独断が事態を悪化させ、義作の保身が味方を毒に巻き込む。読者が舌打ちしたくなる展開が、次から次へと積み重なっていきます。
けれど、この不快感は作品の欠点というより、設計の一部として組み込まれたものと読めます。人間はパニックに陥ったとき、常に正しい選択ができるわけではありません。互いを疑い、責任を押しつけ、私欲で動く ー 猿という外敵より先に、共同体は内側から崩れていきます。
興味深いのは、読み進めた読者の反応が「人間のほうが怖い」という納得へ変わっていく傾向があることです。苛立ちは物語への拒絶ではなく、集団を維持することの難しさを自分ごととして体験している証でもあります。義作という分かりやすい悪役を置きながら、その周囲のモブたちの言い分にも一定の筋を通させているあたりに、作者の目配りが利いています。
人間だけが持つ、模倣されない力
13巻まで来ると、読者の関心は誰が生き残るかよりも、この戦いがどう決着するかへ移ってきます。猿は刀を構える段階に達しており、人間が物理的な力で押し返す可能性は限りなく細くなりました。
ここで手がかりになるのが、作中で村の老人が語った宣言です。人間は脆く、追い詰められれば感情で動き、互いを蔑み、疑い、騙し合う。それでも議論して助け合い、感情と知識を共有して困難を乗り越えられる ー だから自分たちは猿ではない、という言葉でした。読者レビューでもこの台詞は繰り返し引き合いに出されており、物語の答えに最も近い位置にあると考えられます。
猿は個体が覚えた技術を群れ全体へ瞬時に共有します。知識の伝播という一点では、むしろ人間を上回っているとさえ言えます。しかしそこに「信じる」という選択は存在しません。可畏が家族へ向ける揺るぎない信頼と、義作や喜助が体現する裏切りが同じ世界に並んでいる以上、決着は武力の優劣ではなく、種としての在り方そのものを問う形で訪れるはずです。
登場人物・キャラクター分析
主要キャラクター
可畏(かい)

伏影村で妻子と暮らす猟師で、本作の主人公です。獲物の命の重さを感じて狩りをためらうほど気が優しい一方、猿の顔をひとつずつ見分けられる特異な観察眼を持っています。模倣という脅威にいち早く気づき、村中の猟銃を壊すよう訴えた最初の人物でもあります。阿仁村では毒煙を浴びた銀蔵を救うために炎の櫓を登り、自らも毒に蝕まれました。腕に痺れを残したまま、いまは万内村で日本刀を構える群れと向き合っています。
水分(みくまり)

可畏の妻で、物語の序盤から身重の状態にありました。夫の優しさを臆病さと切り捨てず、そのまま受け止めて寄り添う芯の強さを備えた女性です。猿に包囲されるなかトメ婆の家に籠城し、極限の状況下で無事に男の子を産み落としました。赤子を抱えたまま伏影村を脱出し、阿仁村を経て万内村までの逃避行を生き抜いています。守られるだけの存在ではなく、絶望の物語に命の側から光を差し込む役割を担っています。
宇陀(うだ)

可畏の長男で、気が強く、当初は弱腰に見える父を意気地なしと見下していた少年です。猿を追い払おうと放った威嚇射撃が、群れに銃の扱いを覚えさせ、吾平の死を招く引き金になりました。自らの過ちを深く悔いた彼は、火を放たれた小屋から両親を救い出し、可畏との関係を修復します。読者から独断行動を厳しく批判されてきた人物ですが、その未熟さこそが物語を動かしてきた側面もあります。いまは母と生まれたばかりの弟を自分が守るという覚悟を固め、父を支える戦力になりました。
バラタ

可畏の狩猟仲間であり、伏影村の頭領を務めた男です。怒れば手が出る現実主義者で、可畏の銃破壊案を真っ向から否定した人物でもあります。それでも根底にあったのは村を守り抜くという責任感でした。7巻では足に怪我を負い、自分が足手まといになったと判断すると、鳴子を激しく鳴らして村中の猿を一身に引き受けます。娘のハナと仲間たちを逃がしきり、頭領としての威厳を保ったまま最期を迎えました。
多聞(たもん)
可畏の父親で、伏影村の前頭領にあたる古参の猟師です。獣に襲われて左目を失明していますが、猟銃の扱いに長け、判断の速さと厳格さで一行を導いてきました。村の掟を破って放火した喜助へ追放を言い渡したのも彼です。万内村へ向かう道筋を示したのも、旧友の彦八を頼ろうという多聞の判断でした。可畏にとっては精神的な支柱であり続けています。
脇を固める重要人物たち
ハナ

バラタの娘で、おっとりとした性格の心優しい少女です。森で怪我をした子猿を可哀想に思い、大人の目を盗んで匿ったことが、村の脱出計画に亀裂を生みました。阿仁村では義作と久延の密談を立ち聞きしてしまい、気絶させられて小屋に監禁される目に遭っています。父の壮絶な死を乗り越え、いまも仲間とともに万内村で生き延びています。敵を敵としてだけ見ない彼女のまなざしが、今後どこへ結びつくのかは大きな注目点です。
義作(ぎさく)

伏影村の老人で、頭領になれなかった恨みを抱えたまま権力欲を剥き出しにする男です。避難先の阿仁村では久延と裏契約を結び、いざとなれば伏影村の人間を囮にする算段を立てました。薬草の知識を悪用した毒団子と毒煙は、猿の大群を呼び寄せたうえ、銀蔵と可畏まで巻き込みます。最後は須佐を餌にして逃げようとしたところを源と久延に見捨てられ、解体手順を覚えた猿によって食い殺されました。人間の醜さを一身に背負って退場した人物です。
喜助(きすけ)
伏影村の青年で、親友の吾平を猿に殺されたことで理性を失った追放者です。猿ごと可畏夫妻を焼き殺そうとして村を追われ、生け捕りの猿を横取りした際には重吉を手にかけました。逃亡先で伊邪凪と結託し、万内村では自分が逃げる時間を稼ぐために捕らえていた猿を故意に解き放ちます。13巻では村の子供を誘拐し、村人の亀裂を突く提案まで仕掛けました。義作が退場したいま、人間側で最も危険な存在となっています。
伊邪凪(いざなぎ)
ある日ふらりと伏影村へ逃げ込んできた、素性の知れない男です。誰とも目を合わせず、「奴らに見られたら終わりだ」と猿の性質を事前に知っている様子を見せました。彼が災いを連れてきたのか、たまたま先に逃げてきただけなのかは、いまも明かされていません。この曖昧さが村人の疑心暗鬼を煽り、物語全体に不穏な影を落としています。現在は喜助とともに万内村へ潜伏しています。
須佐(すさ)
阿仁村に避難していた鈎掛村の頭領で、威厳と冷静さを併せ持つ人物です。対立していた伏影村との統合を実現するため、頭領でありながら土下座までして懇願しました。毒に倒れた可畏と銀蔵を救うためには、屈辱的な条件を飲んで義作に頭を下げ、解毒薬を勝ち取っています。その義作からは猿の餌にされかけましたが、久延と源が義作を見限ったことで難を逃れました。誇りより仲間の命を優先できる、数少ない大人のひとりです。
久延(くえん)
鈎掛村の青年で、当初は伏影村との統合に強く反対していました。義作と裏契約を交わすものの、ハナ拉致の濡れ衣を着せられて監禁され、あっさり切り捨てられます。信頼していたはずの相手に裏切られた末、最後は義作を冷たく見放しました。単純な善悪に振り分けられない立ち位置にいる人物です。
銀蔵(ぎんぞう)
阿仁村で村人を逃がすため、ひとり物見櫓に残って時間を稼いだ男です。義作が独断で撒いた毒煙をまともに吸い込み、それでも櫓ごと猿を葬ろうと火を放ちました。可畏が炎のなかへ飛び込んで助け出したものの、毒の被害から回復できず命を落としています。犠牲の上に成り立つ村にしてはならないという可畏の信念を、身をもって照らし出した存在です。
阿久良(あくら)
万内村を実質的に取り仕切る現在の頭領で、他村の人間を徹底して排斥する猜疑心の持ち主です。可畏たちがもたらす猿の情報を一切信じず、全員を拘束するという強硬な対応を取りました。喜助が猿を解き放ったことで状況は一変し、やむなく可畏たちと肩を並べて戦う立場に追い込まれます。人間の縄張り意識がどれほど厄介かを体現する人物です。
戦慄と苛立ちが同居する、独特の読み心地
自分の知恵が牙に変わることへの、本能的な恐怖
読者の反応で最も多いのは、猿の学習能力そのものへの戦慄です。石を投げ返された時点で普通の動物パニックではないと気づいた、攻撃すればするほど倍になって返ってくるいたちごっこだ、といった声が各ストアのレビューに並んでいます。人間らしい動きをする人外の不気味さを、初めて味わったと書き残す人も少なくありません。
この反応は、単に怪物が強いことへの驚きとは質が異なります。道具を使えることが人間を人間たらしめてきたという前提そのものが、目の前で崩されていく感覚に近いものです。解体シーンを先に見せてから、それを猿が覚えたかもしれないと想像させる伏線の運び方を評価する読者も多く、恐怖の作り方が丁寧だという指摘も出ています。
江戸時代を舞台にしながら、他人の行動が瞬時に拡散して真似される現代の感覚とどこかで重なる点も、この作品が読まれ続けている理由のひとつでしょう。
苛立ちの奥にある、極限状態のリアリティ
一方で、否定的な声もはっきりと存在します。主人公の息子が何度も大人の制止を振り切って事態を悪化させる、登場人物全員に苛立つ作品はなかなかないといった厳しい感想は、複数のストアで繰り返し見られました。人間同士の胸糞悪いやり取りばかりで話が進まない、テンポが悪いという指摘もあります。
ただ、同じ読者層のなかから「猿も怖いがヒトのほうがもっと怖い」という納得へ着地する感想が数多く上がっている点は見逃せません。ある読者は、村の老人が語る「人間は議論し助け合える」という宣言を引きながら、生物パニックというジャンルへのひとつの回答として的確だったと評しています。
グロテスクな描写や性的な暴力を示唆する場面があるため、読む人を選ぶことは間違いありません。それでも、可畏が家族へ向ける想いと、命がけで仲間を逃がしたバラタの姿が暗闇を照らし続けています。愚かさと尊さが同じ人間のなかに同居している ー その手触りこそが、読者の感情を揺らしながらページをめくらせる力になっています。
疑問を解消(Q&A)
「さるまね」を読むうえで引っかかりやすい疑問を、ネタバレ配慮の段階ごとに整理しました。連載状況からキャラクターの安否まで、知りたい部分に直接お答えしていきます。
みさき「さるまね」を一番お得に読む方法・まとめ
奪われた知恵の先に、何が残るのか
「さるまね」が突きつけてくるのは、文明という砦がどれほど簡単に崩れるかという事実です。飢えと寒さに削られた山村で、人間が積み上げてきた道具と技術が鏡のように反転し、そのまま命を奪う刃へ変わっていきます。抵抗すればするほど敵が強くなる ー この一点だけで、物語は最後まで緊張を保ち続けます。
それでも救いようのない話に堕ちきらないのは、可畏が家族のために選び続ける決断と、仲間を逃がすために命を投げ出したバラタの姿があるからです。細密な筆致で描かれる猿の瞳の鋭さは、読者の日常を静かに削り取ってきます。ページをめくるたびに、守るべきものと差し出せるものの境目を、自分ならどこに引くのかと問われることになります。
予定調和な救いを求めず、追い詰められた人間の本音と正面から向き合いたい方にこそ、手に取ってほしい一作です。
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