軽度知的障害を持つ25歳の有紗と、35歳の岡村。二人の恋愛を通じて、障害を持つ人々の生きづらさと純粋な愛を描く感動作。有紗の自己肯定感の成長と、岡村の葛藤や成長が丁寧に描かれ、読者の心に響く。リアルな心理描写と繊細なタッチで、障害への理解を深めながら、恋愛の喜びと苦しみを体感できる珠玉の物語。

「初恋、ざらり」はどこで読める？

「初恋、ざらり」は作者が2021年3月から自身のTwitter上で掲載していたもので、2021年12月22日からはWebコミック誌コルクスタジオにて連載が開始、2022年10月5日まで連載。

以下の方法で読むことができます

電子書籍：Kindle、eBookJapan、ブックライブなどで配信中。
多くの電子書籍ストアでは、無料で試し読みできます。
紙の書籍：全国の書店で発売中。オンライン書店でも購入可能です。

2巻完結

作品基本情報

タイトル：「初恋、ざらり」

著者：ざくざくろ

ジャンル：
恋愛漫画
社会派ヒューマンドラマ
障害者の日常を描いた作品

ターゲット読者層：
20代後半から30代の青年層
女性読者がメイン
社会問題や多様性に関心のある読者
純愛ストーリーを好む読者

登場人物

上戸有紗

主人公である25歳の女性です。軽度の知的障害と自閉症を持っており、療育手帳はB2を所持しています。IQは68で、養護学校を卒業しています。

有紗は、自分に自信が持てず、男性に体を求められると拒めない性格を持っています。この特性から、コンパニオンの仕事をしながら、好きでもない客とセックスをしていました。これは、自分が存在していい唯一の証だと考えていたからです。

物語が進むにつれ、有紗は配送センターでアルバイトを始め、そこで岡村龍二と出会います。岡村との出会いを通じて、有紗は自分の心を知り、初めて自分の居場所を見つけ、幸せな気分に包まれます。しかし、自分の障害について悩み、「普通」になりたいと強く願うようになります。

岡村龍二

35歳の男性で、配送センターの社員として働いています。眼鏡をかけた穏やかで優しい性格の持ち主で、女性経験が乏しいという特徴があります。

岡村は、アルバイトとして働き始めた有紗に好意を抱き、彼女の素直でがんばり屋な姿勢に惹かれていきます。有紗からの告白を受け入れ、交際を始めますが、彼女の障害について知らされた後も関係を続けます。

しかし、岡村は有紗の障害を知った後、自分でもよく分からない罪悪感を抱くようになります。有紗を好きな気持ちに変わりはないものの、社会や家族からの期待と、自分の気持ちの間で葛藤します。

友ちゃん

友ちゃんは、有紗の支援学校時代の友達です。彼女もまた障害を持っており、スロプロという特性があります。感情のコントロールが苦手で、思い通りにならないと暴れだすという特徴があります。

友ちゃんは、有紗にとって重要な存在であり、彼女の経験や感情を共有できる数少ない人物の一人です。物語の中で、友ちゃんは有紗に「健常者は結局私たちをバカにしてる」という持論を語るなど、障害者の視点から社会を見る重要な役割を果たしています。

有紗の母親

有紗の母親は、シングルマザーとして有紗を育てています。若くして有紗を産み、水商売で生計を立てている女性です。

彼女は、有紗の目を気にせず何人もの「彼氏」を自宅に連れ込むなど、娘との関係に課題を抱えています。しかし、有紗の自立を応援する一面も持っており、完全に冷たく突き放しているわけではありません。

物語の中で、母親は有紗に「捨てられたくなければ、今のうちにおんぶに抱っこをやめて、寄りかかるんじゃなくて支え合うのよ！」と助言するなど、時に厳しくも娘を導こうとします。

あらすじ

コンパニオンとしての有紗

上戸有紗、25歳。軽度の知的障害と自閉症を抱えながら、コンパニオンとして生計を立てていました。

自己肯定感の低さから、客からの不適切な要求を断れずにいましたが、それが自分の存在価値を確認する唯一の手段だと考えていました。しかし、「普通」の生活への憧れから、履歴書に虚偽の記載をして面接に臨み、配送会社での職を得ることになりました。

岡村との邂逅

配送会社で出会った岡村龍二は35歳。女性経験の乏しい彼は、有紗の失敗を温かくフォローする優しい先輩でした。ある日、仕事のミスを謝罪するため3時間も待ち続けた有紗。岡村の車中で勇気を出して「彼女はいますか？」と尋ね、「いない」という返答に心躍らせました。

関係の進展

会社の飲み会をきっかけに、二人の距離は急速に縮まります。岡村の車で送られる途中、玄関先でのキスを母親に目撃されるハプニングもありました。その後、母親の交際相手から危険な目に遭いそうになった有紗は、岡村の家に逃げ込み、そこで互いの想いを告白。交際が始まりました。

障害の告白

関係が深まるにつれ、有紗は自身の障害について告白せざるを得なくなります。

突然の告白に岡村は驚きを隠せませんでしたが、「有紗は有紗だから関係ない」と受け入れてくれました。しかし、岡村の中に生まれた「罪悪感」は、二人の関係に影を落とすことになります。有紗は健常者になりたいという思いから、障害者手帳を返還しようとさえ考えました。

岡村の内面

有紗の障害を知った岡村は、様々な葛藤に苛まれます。

喫煙量の増加や、親からの「普通の娘」を求める言葉に悩まされ、有紗との関係を「一応」付き合っているという曖昧な表現で表すようになります。それでも、「世界で二人きりだったらいいのに」という言葉に、岡村の複雑な心境が垣間見えました。

家事への挑戦

岡村の両親との対面を控え、有紗は家事に奮闘します。

母親からの「支え合うべき」という助言を胸に、洗濯機の使い方さえ分からない状態から始めました。度重なる失敗にも関わらず、岡村は有紗の努力を認め、励ましてくれました。

その優しさに、有紗の岡村への想いは一層深まっていきます。

両親との対面

緊張の面持ちで岡村の両親との対面に臨んだ有紗。

岡村の「障害のことは言わないで」という提案にも関わらず、コンビニで岡村の母親に障害のことを告白してしまいます。「普通に見える」という母親の言葉に複雑な思いを抱き、自分が岡村にふさわしくないのではないかと不安に駆られました。

仕事での挫折

「普通」になりたいという思いから、職場でより難しい仕事に挑戦することになった有紗。

しかし、覚えることの多さに戸惑い、ミスを重ねてしまいます。結局元の部署に戻されることになり、岡村の「みんなが戻ってほしがっている」という言葉が嘘だったと知り、深く傷つきました。

別れと引きこもり

ストレスによる脱毛や聴覚過敏に悩まされ、有紗は突如として岡村との同居生活を終わらせ、実家に戻ります。

「別れてください」という言葉を残し、会社も退職。おばあちゃんの家に引きこもる日々が続きました。岡村との音信不通の中、有紗は彼への想いを断ち切れずにいました。

再会と告白

1年後、スーパーでレジ打ちの仕事をしていた有紗は、桜舞う道で岡村と再会します。

逃げ出そうとする有紗を岡村が追いかけ、カフェで話をすることに。岡村の「やり直そう」という言葉に、有紗は心揺さぶられながらも、まだ自信が持てず、「会えて嬉しかった」と言って席を立ちました。

結末

有紗の後を追った岡村は、「有紗がいない人生なんて」と彼女を抱きしめます。

二人の気持ちは少しずつ変化し、互いを受け入れていきます。最終的に、周囲の祝福を受けながら、新たな一歩を踏み出すことができました。

見どころ

リアルな障害描写が胸に刺さる

「初恋、ざらり」の最大の魅力は、障害を持つ人の日常生活や恋愛をリアルに描いている点です。主人公の有紗が経験する困難や葛藤、そして小さな喜びの一つ一つが、私の心に深く響きました。特に、「暗黙の了解」が通じない場面や、自分の障害と向き合う姿は、新たな気づきを与えてくれます。有紗の不器用さや純粋さが、時に切なく、時に愛おしく感じられ、ページをめくるたびに胸が締め付けられる思いでした。

純粋な恋愛ストーリーに心躍る

この作品のもう一つの魅力は、純粋な恋愛ストーリーとしての側面です。有紗と岡村の関係性の変化や、お互いを思いやる気持ちの描写が本当に素敵で、読んでいて自然と笑顔になってしまいます。特に、岡村が有紗の障害を知った後も、彼女を受け入れようとする姿勢に胸が熱くなりました。二人の関係が進展していく過程で、私も一緒に成長していくような感覚を味わえ、自分の恋愛観も少し変わった気がします。

繊細な心理描写に引き込まれる

作者のざくざくろさんの筆力が光るのが、登場人物たちの繊細な心理描写です。有紗の不安や喜び、岡村の葛藤、そして周囲の人々の反応まで、それぞれのキャラクターの内面がリアルに描かれています。特に、有紗が自分の障害と向き合う場面や、岡村が社会の期待と自分の気持ちの間で揺れ動く様子は、読んでいて思わず涙が出てしまいました。この心理描写の深さが、キャラクターへの共感を深め、物語にぐっと引き込まれる要因になっていると感じます。

社会問題への鋭い切り込みに考えさせられる

この作品は、単なる恋愛ストーリーにとどまらず、私たちの社会に潜む偏見や障害者への理解不足といった問題にも鋭く切り込んでいます。友ちゃんのキャラクターを通じて描かれる「健常者は結局私たちをバカにしてる」という視点は、私自身の無意識の偏見にも気づかせてくれました。また、有紗の母親の複雑な立場や、岡村の両親の反応なども、現実社会の縮図として描かれており、読後に様々な思いが湧き上がってきます。この作品を通じて、社会の在り方や自分自身の価値観について深く考えさせられました。

希望に満ちた成長物語に勇気をもらえる

最後に、この作品の大きな魅力は、登場人物たちの成長物語としての側面です。特に有紗の変化には目を見張るものがあります。自己肯定感の低さから始まり、岡村との出会いを経て、最終的には自立した一人の大人として描かれる姿に、大きな希望を感じました。同時に、岡村の障害への理解の深まりや、周囲の人々の変化も、私たちの社会がより良い方向に進む可能性を示唆しています。この物語を読んで、私自身も何かに挑戦する勇気をもらえた気がします。

「初恋、ざらり」は、障害を持つ人々の日常と恋愛をリアルに描きつつ、読者に深い共感と新たな気づきを与えてくれる素晴らしい作品です。この作品を通じて、私たちは多様性の大切さと、真の愛情とは何かを考えさせられます。ぜひ多くの人に読んでもらいたい、そう心から思える漫画です。

TVドラマについて

小野花梨、風間俊介のW主演で実写ドラマ化されました。
2023年7月8日から9月23日まで、テレビ東京系列の「ドラマ24」枠で放送されました。⁠

感想・考察

障害者の日常と恋愛を描く勇気ある作品

「初恋、ざらり」を読んで、まず驚いたのは障害を持つ主人公の日常をここまで赤裸々に描いていることです。有紗の生きづらさや葛藤が細やかに描かれていて、読んでいて胸が締め付けられる思いでした。特に、自分の存在価値を確認するためにコンパニオンの仕事をしていた有紗の姿には、社会の中で居場所を見つけられない人々の苦しみが凝縮されているように感じます。

作者のざくざくろさんは、自身も発達障害があるそうですが、その経験が作品に深みを与えているのでしょう。有紗の行動や思考が非常にリアルで、「暗黙の了解」が通じない場面など、障害を持つ人の視点からの描写に説得力があります。

一方で、岡村との恋愛を通じて有紗が成長していく姿は、とても希望に満ちています。障害があっても、愛し、愛される存在であることを示してくれる物語に、勇気をもらえました。この作品は、障害者の恋愛を描くことで、私たち読者に「普通」とは何か、真の愛とは何かを考えさせてくれる素晴らしい作品だと思います。

繊細な心理描写が魅力的

この作品の大きな魅力は、登場人物たちの心理描写の繊細さです。有紗の不安や喜び、岡村の葛藤、そして周囲の人々の反応まで、それぞれのキャラクターの内面がリアルに描かれています。特に、有紗が自分の障害と向き合う場面や、岡村が社会の期待と自分の気持ちの間で揺れ動く様子は、読んでいて思わず涙が出てしまいました。

作者は、障害を持つ人の視点だけでなく、その周囲の人々の心情も丁寧に描いています。岡村の両親の反応や、有紗の母親の複雑な立場など、現実社会の縮図として描かれており、読後に様々な思いが湧き上がってきます。

この心理描写の深さが、キャラクターへの共感を深め、物語にぐっと引き込まれる要因になっていると感じます。単なる恋愛漫画ではなく、社会派ヒューマンドラマとしての側面も持ち合わせているのが、この作品の大きな特徴だと思います。

初恋、ざらり気持ち悪い？

「初恋、ざらり」を読んで、「気持ち悪い」という感想を持つ人がいるのも事実です。特に、有紗がコンパニオンとして働いていた描写や、母親の彼氏に襲われそうになるシーンなど、性的な描写に抵抗を感じる読者もいるでしょう。

しかし、これらの描写は決して過剰なものではなく、障害を持つ人々が直面する現実の一側面を表現しているのだと思います。作者は、美化せずにリアルな状況を描くことで、社会の問題点を浮き彫りにしているのです。

また、有紗と岡村の年齢差（25歳と35歳）に違和感を覚える人もいるかもしれません。しかし、この設定も、障害を持つ人の恋愛や結婚の難しさを表現する上で重要な要素だと考えられます。

「気持ち悪い」と感じる部分こそ、私たちの社会に潜む偏見や理解不足を映し出す鏡なのかもしれません。この作品は、そういった不快感や違和感を通じて、読者に自分自身の価値観や社会の在り方について考えさせる力を持っているのです。

多様性と共生を考えさせられる物語

「初恋、ざらり」は、単なる恋愛漫画を超えて、私たちに多様性と共生について深く考えさせてくれる作品です。有紗の生きづらさや岡村の葛藤を通じて、「普通」とは何か、「障害」とは何かを問い直すきっかけを与えてくれます。

特に印象的だったのは、友ちゃんのキャラクターを通じて描かれる「健常者は結局私たちをバカにしてる」という視点です。この言葉は、私自身の無意識の偏見にも気づかせてくれました。社会の中で「当たり前」とされていることが、実は多くの人々を排除してしまっている現実を、この作品は鋭く指摘しています。

同時に、有紗と岡村の関係性の変化を通じて、互いの違いを認め合い、支え合うことの大切さも描かれています。障害の有無に関わらず、一人の人間として向き合い、理解し合おうとする二人の姿勢に、真の共生のあり方を見る思いがしました。

この作品を読んで、私たち一人一人が、自分とは異なる他者をどう受け入れ、共に生きていくのかを考えさせられます。そして、多様性を認め合える社会を作っていくためには、まず自分自身の中にある偏見や固定観念に気づき、それを乗り越えていく勇気が必要なのだと感じました。

読者の声

読むのきつかった（きょうだい児当事者です）

きょうだい児当事者（兄と弟がカナー型自閉症）当然の如く母子家庭ですが、感想としては

「読まない方が良かったな」

です。みんなの願いは同時には叶わない。宇多田ヒカルの歌詞ですが本当にそれを考えずにはいられない。

誰かが助かるとき誰かは負担を強いられることもある（ないこともあるけど）上下きょうだい児母子家庭としては本当に読むのが辛かった。

作者さんの伝えたい思いは分かりました。でも感情がどうしてもついていかない。なんで私はこんなに理解が足りないんだろう。なんで私はそれでも障害のある方の恋愛を応援できないんだろう。

障害のあるなし、認定のあるなしに関わらず、アリサのような、うまくいかない自分の行動の未熟さを嫌に思う気持ちを持つこともわかるのに。

なぜなぜなぜなぜなぜ！！！！！

なぜ私は嫌なんだろう。紙に書き出して考えてみたり他の方のレビューを読んで分かるところ、反論したくなるところを考えてみましたが、もう過去の経験によるトラウマなんだなと結論づける他ありませんでした。

愛ってなんでしょうか。自分を犠牲にすることもまた一つ。自分を大切にすることもまた一つ。しかしみんなの願いはやっぱり同時には叶わないのです。
Amazonより引用

発達障害の女の子の初恋

発達障害のある女の子の初恋の物語です。
有紗がとにかく可愛い。
とてもリアルで、切なくなる。
うちの娘も発達障害があります。
岡村さんのように障害である部分を愛しいなと思ってくれる人が居てくれたらと願わずにはいられません。
Amazonより引用

非常にリアルな描写

作中、両親には言わないようにしておこうと約束しておいたこを、その場で唐突に話してしまうという出来事がある。話してしまった内容の方に焦点が合わせられていたが、私としてはその唐突に話したという行動の方に注目したい。ADHDの場合、この行動は本当に多いということを身近な例で実感している。この本はそういった意味でとてもリアリティがある。

最後まで読んで、既定路線かもしれないけれど良かったと思える。乗り越えなければいけない問題は、この先もたくさんあるんでしょう。それでも二人で支え合ってやっていけたらいい。

ところで、これは男女逆にしたら成り立っただろうか。たぶん無理だろうなと思う。女の子で、可愛くて、軽度だからこれで済んだ。その分、性的に搾取されやすいという問題もあるし、その点は見事に描かれているわけで、やはりリアリティを感じる。
Amazonより引用