「空が灰色だから」心がざわつく青春

10代の少女たちの心の機微を描いたオムニバス短編集。思春期特有の不安、孤独、自己と他者の境界の曖昧さを鋭く切り取る。ギャグからホラーまで多彩なジャンルを織り交ぜ、読者の心を揺さぶる。阿部共実の繊細な描写と独特の世界観が、日常に潜む「ざわつき」を鮮やかに映し出す。青春の甘さと苦さを味わう、心理サスペンス要素を含んだ青春群像劇。

「空が灰色だから」はどこで読める？

5巻完結

作品基本情報

タイトル：「空が灰色だから」

作者：阿部 共実

ジャンル：
青春心理ドラマ
オムニバス短編集
サスペンス・ホラー要素

ターゲット読者層：
10代後半から20代前半
女性読者が中心
心理学や人間関係に興味がある読者
日常の中に非日常を見出す感性を持つ読者

登場人物

「空が灰色だから」は、様々な10代の少女たちを主人公としたオムニバス形式の短編集です。各話に登場する少女たちは、思春期特有の不安や悩み、自己と他者との境界の曖昧さに直面しています。彼女たちは、それぞれの物語の中で、自己のアイデンティティ形成の過程にあり、未知のものへの恐怖感や過剰な自意識に悩まされています。

これらの少女たちは、日常生活の中で様々な困難に直面し、時にはコミュニケーションの難しさを経験したり、自分の感情をうまく表現できずに苦悩したりします。彼女たちの内面は繊細で複雑であり、外見からは想像できないような深い思考や感情を抱えています。

物語を通じて、これらの少女たちは成長の過程を歩んでいきます。時には挫折を経験し、時には小さな勝利を得ながら、自分自身や周囲の世界についての理解を深めていきます。彼女たちの経験は、読者に共感を呼び起こし、思春期の複雑な心理を鮮明に描き出しています。

あらすじ

オムニバスの短編集のため、いくつか印象的なエピソードを紹介します。

「信じていた」野球部のエースと幼馴染の物語

この話では、ある少女が野球部のエースを幼馴染だと一方的に思い込んでいます。少女は彼を応援しようと頑張りますが、その行動が逆効果になってしまいます。「お前は俺を貶めてばかりで嫌いだ」と言われ、絶交されてしまうのです。結局、少女は告白もできずに終わり、エースは別の女の子と付き合うことになります。

この物語は、思い込みの激しさと現実とのギャップ、そして一方的な思いの儚さを描いています。少女の行動は、自分の気持ちを素直に伝えられない思春期特有の歪んだコミュニケーションを表現しています。

「とれちゃった」こわいものみたさの悲劇

このエピソードでは、好奇心旺盛な少女が主人公です。彼女は「こわいものみたさ」から、ある行動を起こします。しかし、その結果、何かが「とれちゃった」ことで物語は衝撃的な展開を見せます。

具体的に何がとれたのかは明かされませんが、その曖昧さがかえって読者の想像力を刺激し、恐怖心を煽ります。この話は、好奇心と恐怖心の狭間で揺れ動く思春期の心理を鮮明に描き出しています。

「お兄ちゃんが」トラウマと再会の物語

この話の主人公である風吹は、自分の不注意から親戚の兄をケガさせてしまったことを後悔し、会うのを避けていました。しかし、ある日母のお使いの帰りに再会します。そこで兄は奇妙な言動を繰り返し、風吹を不安にさせます。

この物語は、過去のトラウマと向き合う難しさ、そして予期せぬ再会がもたらす心理的な動揺を描いています。兄の変化した姿は、風吹の罪悪感と恐怖心を増幅させ、読者に不安感を抱かせます。

「名乗る名もない」アイデンティティの揺らぎ

この物語では、自分の存在に疑問を抱く少女が主人公です。彼女は、自分には「名乗る名もない」と感じています。この感覚は、思春期特有のアイデンティティの揺らぎを象徴しています。

物語が進むにつれ、少女は自己と他者の境界線の曖昧さに直面します。彼女の内面描写を通じて、読者は自己認識の難しさと、社会の中で自分の位置を見出すことの複雑さを感じ取ることができます。

「歩み」友情と孤独の狭間で

この話では、クラスで孤立している無口な「歩ちゃん」と、罰ゲームで彼女に話しかけることになった「桂」が登場します。二人は将棋を通じて親密になっていきますが、物語は予想外の展開を見せます。

この物語は、友情の形成過程とその脆さ、そして集団の中での個人の立ち位置の難しさを描いています。「桂」の行動を通じて、読者は人間関係の複雑さと、自己保身と他者への思いやりの間で揺れ動く心理を垣間見ることができます。

まとめ

「空が灰色だから」は、各話が独立したオムニバス形式の短編集です。それぞれの物語が、思春期の少女たちの内面や人間関係の機微を鋭く切り取っています。全体を通して、自己と他者の境界線の曖昧さ、コミュニケーションの難しさ、アイデンティティの揺らぎなどのテーマが探求されています。物語は完結していますが、各エピソードは読者の心に残る余韻を持って終わっています。

見どころ

独特の世界観と多様なテーマ

「空が灰色だから」は、一話完結のオムニバス形式で展開される青春コミックです。各話で異なる登場人物が登場し、思春期特有の不安や悩み、コミュニケーションの難しさなどが描かれています。私が特に印象に残ったのは、日常的な出来事から突如として非日常的な展開に転じる話の数々です。例えば、「お兄ちゃんが」という話では、主人公が親戚の兄に再会するシーンから始まり、徐々に不気味な雰囲気が漂い始め、最後には恐ろしい真実が明かされるという展開に、背筋が凍る思いをしました。このような予測不可能なストーリー展開が、読者を惹きつけて離さない魅力の一つだと感じます。

繊細な心理描写

登場人物たちの心の機微が、実に繊細に描かれているのも本作の大きな魅力です。特に印象的だったのは、「マシンガン娘のゆううつうつうつうつうつ……」という話です。主人公の少女が、友人との会話の中で感じる不安や後悔、自己嫌悪などが、まるで私自身の経験のように感じられ、思わず共感してしまいました。作者の阿部共実さんは、10代の少女たちの複雑な心情を見事に表現しており、読んでいると自分の過去の姿を見ているような気持ちになります。

独特の絵柄と演出

阿部共実さんの絵柄は、一見かわいらしくポップな印象を受けますが、ストーリーが進むにつれて不気味さや狂気を感じさせる描写に変化していきます。特に印象的なのは、小さな虫や液体、水玉模様などを多用する演出です。例えば、「さいこうのプレゼント」という話では、表紙で主人公が持っているプレゼントやお守りに蠅がたかっている描写があり、一見何気ない日常の中に潜む不穏な空気を巧みに表現しています。この独特の演出によって、読者の心に「ざわざわ」とした感覚が残り、長く余韻が続くのです。

多様な解釈の余地

本作の魅力の一つは、一つの話に対して多様な解釈ができる点です。例えば、最終話の「歩み」は、読者の間でも様々な意見が飛び交っています。私自身、初めて読んだときは単純に主人公の行動に憤りを感じましたが、何度も読み返すうちに、人間関係の複雑さや自己保身の難しさなど、より深いテーマが隠されていることに気づきました。このように、一度読んだだけでは気づかない深い意味が込められているのも、本作の魅力だと思います。

現実との共鳴

「空が灰色だから」は、フィクションでありながら、現実の日常生活と強く共鳴する作品です。例えば、「金魚」という話では、表情を変えることが苦手な主人公が周囲から疎外される様子が描かれていますが、これは現代社会における同調圧力や、「空気を読む」ことの難しさを反映しているように感じました。また、「4年2組熱血きらら先生」の話では、善意のつもりが実は押し付けになっている教師の姿が描かれており、大人の無自覚な言動が子供たちに与える影響について考えさせられました。

「空が灰色だから」は、一見すると暗く重たいテーマを扱っていますが、それゆえに私たちの心に深く刺さる作品です。この作品は、私たちが普段気づかない、あるいは目を背けたくなるような現実を鋭く描き出し、読者に新たな視点を提供してくれます。そして、それぞれの話が読者の心に残り、長く考えさせる力を持っているからこそ、何度も読み返したくなる魅力的な作品なのだと思います。

感想・考察

思春期の不安と孤独を描く、心に刺さる短編集

「空が灰色だから」を読んで、まず驚いたのは、このマンガがいかに鮮やかに思春期の不安や孤独を描き出しているかということです。一話完結のオムニバス形式で、毎回異なる登場人物が登場するのですが、どの話も10代の少女たちの繊細な心情が丁寧に描かれています。

特に印象に残ったのは、「マシンガン娘のゆううつうつうつうつうつ……」という話です。主人公の少女が友人との会話の中で感じる不安や後悔、自己嫌悪の描写が、まるで自分の過去の姿を見ているようで胸が締め付けられました。思春期って本当に難しい時期で、些細なことで悩んだり、自分を責めたりしがちですよね。この作品は、そんな誰もが経験したであろう思春期特有の感情を、リアルに、そして時にはユーモアを交えて描いていて、読んでいて思わず「あるある」と頷いてしまいます。

作者の阿部共実さんは、こういった10代の少女たちの複雑な心情を見事に表現していて、読んでいるうちに自分の過去の姿と重なって、懐かしさと切なさが込み上げてきました。

日常と非日常の境界線を曖昧にする独特の世界観

この作品のもう一つの魅力は、日常的な出来事から突如として非日常的な展開に転じる、予測不可能なストーリー展開です。例えば、「お兄ちゃんが」という話では、主人公が親戚の兄に再会するという何気ない日常のシーンから始まるのですが、徐々に不気味な雰囲気が漂い始め、最後には恐ろしい真実が明かされるという展開に、背筋が凍る思いをしました。

この作品は、一見するとかわいらしくポップな絵柄なのですが、ストーリーが進むにつれて不気味さや狂気を感じさせる描写に変化していきます。特に印象的なのは、小さな虫や液体、水玉模様などを多用する演出です。例えば、「さいこうのプレゼント」という話では、表紙で主人公が持っているプレゼントやお守りに蠅がたかっている描写があり、一見何気ない日常の中に潜む不穏な空気を巧みに表現しています。

この独特の演出によって、読者の心に「ざわざわ」とした感覚が残り、長く余韻が続くのです。日常と非日常の境界線を曖昧にすることで、私たちの日常生活の中にも、実は不気味で理解しがたいものが潜んでいるのではないか、という問いかけをしているように感じました。

現代社会への鋭い洞察

「空が灰色だから」は、単に思春期の少女たちの心情を描くだけでなく、現代社会の問題にも鋭く切り込んでいます。例えば、「金魚」という話では、表情を変えることが苦手な主人公が周囲から疎外される様子が描かれていますが、これは現代社会における同調圧力や、「空気を読む」ことの難しさを反映しているように感じました。

また、「4年2組熱血きらら先生」の話では、善意のつもりが実は押し付けになっている教師の姿が描かれており、大人の無自覚な言動が子供たちに与える影響について考えさせられました。この話を読んで、自分も知らず知らずのうちに誰かを傷つけていないか、と反省させられました。

作者の阿部共実さんは、こういった社会の問題を、直接的な批判ではなく、登場人物たちの日常を通して巧みに描き出しています。そのため、読者は自然と社会の問題について考えさせられ、新たな視点を得ることができるのです。

この作品は、一見すると暗く重たいテーマを扱っていますが、それゆえに私たちの心に深く刺さる作品だと思います。私たちが普段気づかない、あるいは目を背けたくなるような現実を鋭く描き出し、読者に新たな視点を提供してくれます。そして、それぞれの話が読者の心に残り、長く考えさせる力を持っているからこそ、何度も読み返したくなる魅力的な作品なのだと感じました。

読者の声

「青春というなんかぐぢゃぐぢゃしたもの」

阿部共実『空が灰色だから』再読。
ああ、やっぱりこれはいい。
まず、ギャグマンガ以外で「マンガの短篇集」の傑作って意外と数が少ないと思う。『ゴルゴ13』『ブラック・ジャック』みたいに主人公がびしっと決まっていれば連作として成り立つのだが、本作のように毎回登場人物が入れ替わる傑作マンガ短編集って案外思いつかないが、これは見事にやってのけていると思う。
全篇を通じて「青春というなんかぐぢゃぐぢゃしたもの」がこれでもかと詰め込まれている。そして「コメディ」で終わるのか、「ホラー」で終わるのか、全く予想がつかないので読んでいる最中はらはらしっぱなし。
個人的に大好きなのは「お前は私を大嫌いなお前が大嫌いな私が大嫌い」「今日も私はこうしていつもつまらなそうな顔してるあいつとつまらない話をして日を過ごしていくのだ」「ガガスバンダス」の3篇。って書いてみて思ったけど、この作者の言語感覚って突出しているよなあ。
しかしもう10年以上前の作品なのか、信じられない。最初に読んだとき妻と「これすごい、これすごいよ！」と驚嘆しながら読んだものだった。『少年チャンピオン』という雑誌はたまにこういうものすごい作家を掘り出してくるなあとつくづく感心する。
Amazonより引用

各話ごとに「間」が欲しい

毎週楽しみに読んでいる「空灰」が単行本になったということなので
手に入れないわけにはいかないと早速購入、改めて読んだ。

改めて感じるが、阿部の描く登場人物はみんな愛おしい。
どの登場人物も抱きしめてあげたくなるほど可愛い。男女関係無く。
そして毒のある話であってもどこかコミカルな感じが話の全体を暗さ一色にさせていないのが好印象だ。

絵柄はすっきりとした独特のセンスの良い感じで、
そしてこの作者の一番の特徴は、言葉の語彙が非常に豊富であることだ。才能にあふれている。
それを駆使した会話やモノローグはお見事というほか無い。
個人的には、ちょっとした作者自身の疑問を題材にしたテーマの話が（第５話の内臓話、第１１話の人間という生き物について等）
僕自身もふとそう感じることがあったのでなんだか非常に親しみが湧いた。
Amazonより引用

不安定になる

心がざわつく思春期コミックとか人々のうまくいかない日常を描くとか書いてるけど、これが的を射ているかは正直疑問

久々に読みたくなってコミックス一気読みしたが、それに伴ってこの作品のカラーを再認識する事になった

一話完結のオムニバスが兎に角おっかない
心温まるいい話、ほっこりする話から救いようのない鬱話や恐怖話、狂気話や嫌悪感しか無い話までバラバラなので、今読んでる話がどこに落ちて行くのかがわからない
最下層に位置する話はシャレにならん
これが怖い

作品はカラーがあるものだがこれはカラーがない事がカラーなのだ

正直私には共感出来るような心情描写は無いんだけど、なるほどと思わせるものは確かにある

りこなちゃんがゴタクを並べ始めたら安心なのでホッとする
Amazonより引用

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作者について

阿部 共実

あべ ともみ

漫画家。男性。2009年『COZ!～クロスオーバーザン～』が、「週刊少年チャンピオン」の2009年4月期月例フレッシュまんが賞フレッシュ賞を受賞。同年末には、『恋する殺人鬼』で、第73回新人まんが賞奨励賞を受賞。

2010年「週刊少年チャンピオン」に、読切り『破壊症候群』を掲載しデビュー。本作は第74回新人まんが賞入選作品。2010年「日刊!浦安鉄筋家族THE WEB」に、『ドラゴンスワロウ』を連載。2011年「週刊少年チャンピオン」に、『空が灰色だから手をはなそう』を短期連載。その後、作品名を『空が灰色だから』に改題した。2014年『ちーちゃんはちょっと足りない』が、「このマンガすごい!2015」のオンナ編第1位を獲得。同作は、第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した。

その他の作品に、『ブラックギャラクシー6』『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』などがある。

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「空が灰色だから」まとめ

• 2013年に週刊少年チャンピオンで連載終了
• 作者：阿部共実
• コミックス情報：全5巻で完結
• 読むには：割引クーポンを使えば、eBookJapanでお得に読める
• 作品の魅力：思春期の繊細な感情や日常の不条理さを、ポップな絵柄とのギャップで表現。ギャグ、ホラー、日常など多様なジャンルを織り交ぜたオムニバス形式が特徴
• キャラクター：毎話異なる登場人物が登場し、それぞれが独特の個性や悩みを持つ。10代の少女を中心に描かれる
• テーマ性：思春期特有の不安、自己と他者の境界の曖昧さ、アイデンティティの形成、コミュニケーションの難しさなどを探求
• ジャンルの新規性：「心がざわつく」思春期コミックとして、従来の青春漫画とは一線を画す。日常の中に潜む不気味さや不条理さを描く新しいアプローチ
• 読者の感想：「もやもやする」「心に刺さる」「リアルで共感できる」といった意見が多い。一方で「後味が悪い」「読後感が重い」という感想も
• 印象に残るエピソード：「信じていた」（野球部の話）、「お兄ちゃんが」、最終話「歩み」など、読者の心に強く残る話が多数
• 作画の特徴：小さな虫や液体、水玉模様などを多用。ポップな絵柄と物語の内容のギャップが印象的
• 背景描写：作者の地元である兵庫県の風景がたびたび使用されている