壮大な失敗作か、未完の傑作か ー 石川優吾「BABEL」の魅力と賛否を徹底分析

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もし、あの「南総里見八犬伝」が、西洋から到来した悪魔や時間SFの要素と融合したら、一体どのような化学反応が起きるでしょうか。

石川優吾先生による「BABEL」は、古典的な八犬伝奇をベースにしながらも、その枠を大胆に破壊し、再構築を試みた意欲作です。美麗で力強い筆致で描かれる壮大な世界観は、多くの読者を引き込む一方で、作者の過去作「スプライト」とのクロスオーバーや、賛否が分かれる結末など、多くの論点を内包しています。

この記事では、基本的なあらすじ(ネタバレなし)から、魅力的な全登場人物の紹介、そして特に議論を呼んだ伏線やタイトルの謎、最終回の結末まで、元書籍バイヤーの視点から深く分析します。

この作品が放つ唯一無二の熱量と、その奥深さを発見するための一助となれば幸いです。

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作品名:「BABEL」
作者:石川優吾
ステータス:完結済
巻数:10巻
連載:ビッグコミックスペリオール

以下の方法で読むことができます

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  • 紙の書籍:全国の書店で発売中。オンライン書店でも購入可能です。
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もくじ

「BABEL」はどこで読める?

まずは基本情報をチェック

作者の石川優吾先生は、ギャグからシリアスなSFまで、幅広いジャンルで読者を引き込む実力派として知られています。特に代表作「スプライト」で見せた時間SFの卓越した構成力は、多くのファンを魅了しました。本作「BABEL」は、そんな先生が長年構想を温めてきた意欲作であり、単なる古典の漫画化に留まらない、強い情熱が込められています。

ジャンルとテーマ解説

本作は、日本の古典「南総里見八犬伝」を土台とした歴史ファンタジーに分類されます。しかし、その枠に収まらず、西洋の悪魔が登場するダークファンタジーや、時空を超えるSFの要素が大胆に融合している点が最大の特徴です。

物語の根底には、宝珠に導かれた八犬士が巨大な悪に立ち向かうという、勧善懲悪の熱い構図があります。一方で、日本古来の神仏と西洋の悪魔といった、本来交わるはずのない異質な価値観が衝突する混沌とした世界観も、作品の重要なテーマです。

壮大なスケールで描かれる伝奇や、常識が覆されるようなダークファンタジーに関心のある方には、特に知的好奇心を刺激されるのではないでしょうか。

巨大な原作「南総里見八犬伝」とメディア展開

「BABEL」の原作は、江戸時代後期に曲亭馬琴によって書かれた長編伝奇小説「南総里見八犬伝」です。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の玉を持つ八犬士の活躍を描いたこの作品は、日本の大衆娯楽に計り知れない影響を与えた、まさに伝奇小説の金字塔と言えるでしょう。

その人気の高さから、これまで歌舞伎、映画、テレビドラマなど、数えきれないほどの翻案が生まれてきました。特にNHKで放送された人形劇「新八犬伝」は有名で、「BABEL」の作者である石川優吾先生も、幼少期にこの人形劇から大きな影響を受けたと公言しています。

これほど多くの関連作が存在する中で、「BABEL」がどのような独自性を打ち出したのかが注目されます。なお、2025年現在、漫画「BABEL」自体のアニメ化やドラマ化といったメディア展開は発表されていません。

漫画「BABEL」と原作の決定的な違い

「BABEL」は原作の骨子を尊重しつつも、非常に大胆なアレンジが加えられています。その違いは、単なる設定変更に留まらず、作品の根幹を揺るがすほど大きなものです。

敵の正体 ー 和風の怨霊から西洋の悪魔へ

原作では、犬士たちが戦う相手は玉梓(たまずさ)の怨霊など、日本古来の妖怪やあやかしが中心でした。しかし「BABEL」では、その敵の正体を西洋から到来した悪魔として描いています。作中にはベルゼブブやアモンといった名も登場し、魔王と化した織田信長もその力を利用します。これにより、和風伝奇から、より根源的でスケールの大きな「神仏 vs 悪魔」という構図へと昇華させています。

SFとの融合 ー 時を超える八犬士の戦い

本作を最も特徴づけているのが、SF要素、特にタイムスリップの導入です。物語中盤から、作者の過去作「スプライト」の登場人物たちが合流し、現代兵器を手に犬士たちと共闘します。この前代未聞のクロスオーバーにより、「BABEL」は歴史ファンタジーの枠を超え、「超時空ファンタジー」とでも言うべき唯一無二のジャンルへと変貌を遂げました。これは原作には全く存在しない、最大のオリジナル要素です。

再解釈された時代とキャラクター

物語の舞台も、原作の室町時代後期から約100年後の戦国時代末期(永禄年間)へと移されています。これにより、織田信長という誰もが知る歴史上のカリスマを「魔王」として登場させることが可能になりました。

また、キャラクターの関係性にも変更が見られます。例えば、原作では世代が異なる伏姫と犬塚信乃が、本作では同世代の若者として出会い、より直接的に関わり合うなど、現代的な視点での再解釈が試みられています。

物語への入り口ー「BABEL」のあらすじ(ネタバレなし)

物語の舞台は、永禄元年の安房国。里見家は、妖婦・玉梓(たまずさ)が操る怪しい術と、隣国の侵攻によって滅亡の危機に瀕していました。

この窮地を救うため、里見家の姫・伏姫(ふせひめ)は、神の狗(いぬ)と噂される霊犬・八房(やつふさ)の力を借りることを決意します。その道中で若き農民・犬塚信乃(いぬづか しの)と運命的に出会い、彼の助けを得て八房を城へと迎え入れます。

しかし、それは更なる過酷な運命の始まりでした。伏姫と八房の血の契約、そして呪いとの壮絶な戦いの末、伏姫が持つ数珠から八つの宝珠が四方へと飛び散ってしまいます。

宝珠に選ばれし「八犬士」を探し、諸悪の根源を断つため、信乃は苦難に満ちた旅に出ることを決意するのでした。ここから、壮大なる八犬伝奇が幕を開けます。

物語の核心へ 深掘りあらすじ【⚠️ここからネタバレを含みます】

以下の内容は物語の核心に触れるネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。

【ネタバレ注意】深掘りあらすじを見るにはここをタップ

序章 ー 八犬士の目覚めと伏姫の因縁

物語は、妖婦・玉梓の呪いによって滅亡の危機にある安房里見家から始まります。 里見家の姫・伏姫は、神の狗と称される霊犬・八房と血の契約を結び、その因縁が八つの霊珠(宝珠)を飛散させるきっかけとなります。 若き農民・犬塚信乃は、この戦いの中で最初の犬士「孝」の力を覚醒。 玉梓との死闘を制した彼は、伏姫を救い、残る七人の犬士と宝珠を探すため、苦難の旅へと出発します。

犬士集結と試練 ー 扇谷城の死闘

旅を続ける信乃は、関東管領・扇谷定正が支配する城に辿り着きます。 そこでは人々を無理やり戦わせる「人間蠱毒」とも言うべき非道な闘技場が常設されていました。 信乃はそこで、二人目の犬士「信」の宝珠を持つ「剛の者」犬飼源八と敵として再会。 しかし、源八の心優しい本質に触れ、彼を仲間に引き入れます。 やがて扇谷定正が西洋の悪魔「ベルゼブブ」としての正体を現し、二人の犬士は力を合わせ、この強大な敵との死闘に挑みます。

薩摩編・前編 ー 南国の犬士と異文化の民

舞台は南国・薩摩へ。島津家の家臣の下男で、相撲を得意とする心優しい大男・犬田小文吾は、不思議な犬を助けたことで島津家から追われる身となります。 屋久島へ流れ着いた彼は、島津の圧政から逃れた隠れキリシタンや西欧の宣教師、そして琉球から亡命してきた王女といった、多様な文化を持つ人々に匿われます。 平穏な日々も束の間、島津の追っ手が迫り、小文吾は彼らを守るため、犬士「悌」の力に目覚めていきます。

薩摩編・後編 ー 魔将・島津貴久との激突

一方、比叡山からの密命で薩摩に潜入した信乃は、牢の中で小文吾と運命的に合流。 彼らは「ひえもんとり」と呼ばれる、罪人の生き肝を喰らう残虐な捕物遊戯の獲物として城下に放たれます。 犬士たちは力を合わせて抵抗し、西洋の甲冑に身を包んだ領主・島津貴久と対峙。 その正体が悪魔「アモン」であることを知った犬士たちが絶体絶命の危機に陥った時、琉球王女が秘めたる力で巨大な「龍」を呼び寄せ、戦局は大きく動きます。

世界の交錯 ー 時を超える協力者

島津との戦いの最中、物語は誰も予測し得なかった局面へ。 突如、現代兵器で武装した少年・孫兵衛と男・対馬が出現します。 彼らは作者の過去作「スプライト」の登場人物であり、時間SFの要素が物語に流れ込み、世界観は一気に拡大。 伏姫の宣託を受けた犬士たちは、この時空を超えた協力者たちと共に、生ける屍(ゾンビ)が跋扈する魔境と化した諏訪の地へと向かうことになります。

最終決戦 ー 魔王信長とバベルの塔

全ての異変の裏には、歴史上の覇者であり、本作における最大の敵「魔王・織田信長」の存在がありました。 犬士一行は、伏姫が示した「千里眼」を持つ孫兵衛たちと合流するも、直後に信長が遣わした死者の軍勢に襲われます。 諏訪大社の神秘的な力の助けを借りて辛くも窮地を脱した犬士たちは、武田や上杉といった諸大名と連合軍を結成。 時空とワンダーが交錯する中、信長の居城である天を突く巨大な塔、通称「バベル」での最終決戦へと挑んでいきます。

物語を彩る登場人物たち

犬塚 信乃(いぬづか しの)

犬塚信乃

本作の主人公格となる、義理堅く真っ直ぐな青年。里見家を巡る戦いの中で、最初の犬士「孝」の力に目覚めます。宝珠に導かれるまま、仲間と出会い、強大な敵に立ち向かう運命を背負います。

犬飼 源八(いぬかい げんぱち)

「剛の者」と称される、屈強な肉体を持つ犬士。当初は信乃と敵対しますが、本来は心優しく情に厚い性格の持ち主です。改心した後は、信乃にとって頼れる兄貴分のような存在となります。

犬田 小文吾(いぬた こぶんご)

薩摩の地で登場する、相撲を得意とする心優しい大男。愚直なまでに誠実で、守るべき者のために犬士「悌」の力を発揮します。その巨体と怪力で、犬士たちの力強い盾となります。

伏姫(ふせひめ)

伏姫

物語の発端となる、安房里見家の姫。家の存亡を懸けて神の狗・八房と契約し、八犬士誕生のきっかけを作ります。過酷な運命に翻弄されながらも、犬士たちを導く巫女のような存在です。

ゝ大(ちゅうだい)

ゝ大

延暦寺の高僧であり、神の狗・八房と共に過酷な修行を成し遂げた人物。犬士たちの精神的な支柱であり、その豊富な知識と法力で一行を導きます。生真面目な性格ですが、その行動は常に犬士たちの行く末を案じてのものです。

八房(やつふさ)

八房

ゝ大と共に千日回峰行を成し遂げた「神の狗」。伏姫と運命的な契約を結び、八犬士誕生のきっかけを作った、物語の鍵を握る存在です。その肉体を失った後も、霊的な姿で犬士たちの旅を見守り、導きます。

玉梓(たまずさ)

美しい姿とは裏腹に、冷酷非道な妖術を操る謎多き妖婦。物語序盤から中盤にかけて、執拗に犬士たちの前に立ちはだかります。その正体は、和風の怨霊とは一線を画す、より根源的な存在です。

内藤 吉十郎 孫兵衛(ないとう きちじゅうろう まごべえ)

物語中盤から登場する「千里眼」を持つ少年。その正体は、時空を超えてやってきた協力者です。現代的な知識と装備を持ち、犬士たちの戦いに新たな局面をもたらす重要なキーパーソンとなります。

左母二郎(さもじろう)

元は盗人ですが、どこか憎めないトリックスター的な青年。信乃と行動を共にし、その身軽さと機転で一行の窮地を救うことも。シリアスな展開が続く中で、彼の存在が清涼剤となる場面もあります。

織田 信長(おだ のぶなが)

歴史上の覇者が、本作では「魔王」として犬士たちの前に君臨します。欧羅巴(ヨーロッパ)から来たという魔の力を自在に操り、死者の軍勢を率いる圧倒的な存在。物語後半の最大の敵です。

額蔵(がくぞう)

額蔵

信乃の幼馴染であり、義兄弟の青年。侍になることを夢見つつも、現実的な判断を下す人間臭い一面を持ちます。彼の選択は、理想を追い求める信乃の歩む道と、常に対比的に描かれます。

私がハマった理由!見どころ&魅力を語らせて!

筆致が描き出す、禍々しくも美しいダークファンタジー

石川優吾先生の卓越した画力は、本作の魅力を語る上で欠かせません。緻密に描き込まれたキャラクターや背景は、物語に確かな実在感を与えています。特に注目すべきは、光と影のコントラストを巧みに用いた表現です。影を深く落とすことで、作品全体に不穏で怪奇的な空気が漂い、ページをめくる手に緊張が走ります。

目を背けたくなるほどおぞましい悪魔や、生ける屍の群れの描写さえも、その圧倒的な筆致によって、一種の芸術的な凄みへと昇華されています。この美しくも禍々しいダークファンタジーの世界観に、一度足を踏み入れれば、きっと強く引き込まれるはずです。

「八犬伝」×「悪魔」×「SF」ー常識を破壊する知的興奮

「BABEL」の最大の魅力は、その大胆すぎるほどのジャンルの融合にあります。日本の古典文学「南総里見八犬伝」を土台としながら、そこに西洋の悪魔やキリスト教の要素、さらにはタイムスリップといったSFの概念までが、何のてらいもなく投入されます。

この異質な要素の衝突は、時に読者を混乱させ、賛否が分かれる要因ともなりました。しかし、この常識を破壊するような組み合わせこそが、他のどの作品にもない強烈な個性を生み出しています。「次に何が起こるか全く予測できない」というスリルは、物語の根源的な面白さであり、読み手の知的好奇心を強く刺激するのです。

物語の「常識」が通用しない、壮大なスケールの冒険

八犬士の旅は、原作の主な舞台である関東に留まりません。南国の薩摩へ、琉球へ、そして時空を超えて…と、物語はどこまでも壮大なスケールで展開していきます。読者の予想は良い意味で裏切られ続け、「この壮大な風呂敷をどう畳むのだろう」という期待と不安が、ページを読み進める強烈な推進力となります。

一つのジャンルや約束事に縛られず、面白さのためなら全てを取り込もうとする作者の野心的な姿勢が、この予測不能な冒険を生み出しました。常識的な展開に飽きてしまった方にこそ、この規格外の展開を体験していただきたいです。た壮大なスケールと深い思想性を持つ作品です。迫力ある戦闘シーンと繊細な心理描写のバランスが絶妙で、読むたびに新たな発見がある、まさに何度も読み返したくなる傑作だと思います。

「BABEL」というタイトルの真意とは?伏線と結末を徹底考察

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「BABEL」© 石川優吾 / 小学館
(ビッグコミック https://bigcomicbros.net/work/6362/ より引用)

この壮大な作品には、物語の随所に巧妙な伏線や仕掛けが散りばめられています。なぜ「八犬伝」が「BABEL」と名付けられたのか。衝撃的だったクロスオーバーの意味とは。そして、多くの読者が様々な思いを抱いたであろう、あの結末。ここでは、物語をより深く味わうためのいくつかのポイントについて、少し踏み込んで考察してみたいと思います。

序盤の違和感に隠された、壮大な世界観への布石

物語の序盤、妖婦・玉梓が唱える呪文が、どことなく異国風であることに気づいた方もいるかもしれません。これは、本作が単なる和風伝奇ではないことを示す、巧みな伏線でした。当初は日本の怨霊や妖怪との戦いに見えながら、その実、敵の正体は西洋から到来した悪魔「ベルゼブブ」や「アモン」であると明かされていきます。

この「和」と「洋」の対立構造は、後述するタイトルの意味にも繋がる重要なテーマです。古典的な物語の中に異質な要素を少しずつ忍び込ませ、やがてその正体を明かす構成は、読者の常識を鮮やかに覆す見事な仕掛けと言えるでしょう。

なぜ合流したのか?「スプライト」とのクロスオーバーの意図

物語中盤で、作者の過去作「スプライト」の登場人物たちが合流する展開は、本作で最も大胆な仕掛けであり、大きな議論を呼びました。これは単なるファンサービスではなく、物語のテーマを深めるための必然的な融合だったと解釈できないでしょうか。

「スプライト」は「時間」をテーマにした作品です。「BABEL」に彼らが登場することで、八犬士の戦いは単一の時代に留まらない、時空を超えた普遍的な闘争へとスケールアップします。歴史上の人物である魔王・信長に対抗する上で、同じく歴史の「if」に挑み続けてきた彼らの存在は、物語に説得力と複雑な奥行きを与えています。

最大の謎 ー「BABEL」というタイトルに込められた意味

多くの読者が疑問に感じたであろう、この「BABEL」というタイトル。旧約聖書の「バベルの塔」の逸話は、神に挑んだ人間の傲慢と、その結果として言語が乱れ、計画が頓挫する様を描いています。

本作では、日本の神仏と西洋の悪魔、八犬士と魔王信長、そして過去と未来(スプライト)といった、相容れない価値観や存在が衝突し、まさに「バベル」的な混沌状況が生まれています。また、作中終盤に登場する巨大な「塔」は、その象徴そのものです。このタイトルは、異文化の衝突という物語の核と、神のごとき存在(魔王信長)への挑戦というテーマを、見事に暗示しているのではないでしょうか。

駆け足の結末と、そこに残された希望の解釈

全10巻という構成に対し、物語の風呂敷が広げすぎたという印象や、終盤の駆け足展開に「打ち切り」を感じたという声は少なくありません。多くの謎が未消化のまま終わったと感じる部分があるのは事実でしょう。

しかし、その中で描かれた最後の光景を、個人的には見過ごしたくありません。戦いの果てに、光り輝く八つの宝珠が示された場面。これは、たとえ物語が性急な結末を迎えたとしても、八犬士が象徴する「徳」や「希望」は失われていない、という作者からのメッセージだったのではないでしょうか。広げすぎた風呂敷を「畳みきれなかった」のではなく、あえて「畳まなかった」ことで、その先のIFを読者の想像に委ねた。そんな風に解釈することも、可能だと考えています。

読者はどう見たかー「BABEL」に寄せられたリアルな評判

この独創的な作品について、実際に手に取った読者からはどのような声が寄せられているのでしょうか。主なご意見をまとめてみました。

「最高!」「人生変わった!」共感の嵐 ポジティブな口コミ

まず多く見られるのが、石川優吾先生の圧倒的な画力と、それによって構築される世界観への称賛です。壮大で禍々しいダークファンタジーの雰囲気を、迫力ある筆致で見事に表現している点が高く評価されています。特に物語序盤の引き込みが強く、「一気に読んでしまった」という声も少なくありません。

また、古典「南総里見八犬伝」を、西洋の悪魔やSFと融合させるという大胆な再解釈が、多くの読者に新鮮な驚きを与えたようです。「こんな八犬伝は見たことがない」と、そのユニークな試みを楽しむ意見が目立ちます。作者の過去作「スプライト」のファンからは、クロスオーバー展開に喜びの声も上がっていました。

「ちょっと難しい?」「好みが分かれるかも?」気になる意見もチェック

一方で、その独創性ゆえに「好みが分かれる」という意見も、正直なところ多く聞かれます。特に物語終盤の展開については、駆け足気味で「打ち切りなのでは?」と感じた読者もおり、広げた風呂敷を畳みきれていないのでは、という不完全燃焼感を指摘する声が最も多いようです。

また、物語中盤からの「スプライト」とのクロスオーバーは、過去作を未読の方にとっては唐突に感じられ、戸惑いの原因になったという意見も見られます。原作「八犬伝」の純粋なファンタジーを期待していた方からも、大胆すぎるアレンジに否定的な感想が寄せられていました。このような独創的な試みだからこそ、評価が大きく分かれる傾向にある作品と言えるでしょう。

【わたしのガチ評価】漫画好き女子が本音レビュー!

BABEL
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総合評価
( 3.5 )
メリット
  • 息を呑むほど緻密な画力と、それによって構築される禍々しくも美しい世界観は圧巻です。
  • 古典「八犬伝」をSFや西洋悪魔と融合させた、常識を覆す独創的な発想に知的好奇心が刺激されます。
  • 次に何が起こるか全く読めない、スリリングで予測不能な展開が読者を飽きさせません。
デメリット
  • 物語終盤の展開が駆け足気味で、多くの伏線や謎が未消化に感じられる点は否めません。
  • 過去作とのクロスオーバーは、未読の方にとっては唐突に感じられ、好みが大きく分かれる可能性があります。

特に素晴らしいと感じた点

本作の魅力は、まず何と言っても石川優吾先生の圧倒的な画力と、それによって生み出される世界観の凄みにあります。緻密な筆致で描かれるキャラクターの表情やアクション、そして影を巧みに使ったダークな雰囲気は、ページをめくるごとに読者を物語の奥深くへと引き込みます。時に目を背けたくなるようなグロテスクな描写でさえ、作品の持つ壮大なスケールと怪奇性を表現するための重要な要素として、見事に機能しています。

また、古典「南総里見八犬伝」を、西洋の悪魔やSFといった異質な要素と大胆に融合させた発想は、他のどの作品にもない知的興奮を与えてくれます。「八犬伝」という誰もが知る土台があるからこそ、その「お約束」が破壊されていく様に、私たちはスリルと驚きを感じるのです。この野心的な試みは、物語に唯一無二の個性と、考察のしがいのある深みをもたらしていると感じます。

留意しておきたい点

一方で、その野心的な構想ゆえに、留意すべき点も存在します。最も多くの方が指摘するであろう点は、物語終盤の展開が駆け足気味に感じられることです。壮大に広げられた数々の伏線や謎が、全10巻という構成の中では十分に回収しきれていないという印象は否めず、読後、ある種の消化不良感を覚える方もいるかもしれません。

また、物語中盤からの過去作「スプライト」とのクロスオーバーは、本作の評価を大きく左右するポイントです。過去作のファンにとっては嬉しい驚きである一方、未読の方にとっては物語の流れを掴みづらく、唐突な展開に感じられる可能性があります。この点は、読み手の背景によって評価が大きく分かれるため、事前に理解しておくと良いでしょう。

総合的な評価:★★★☆☆ 3.5/5点

いくつかの留意点はあるものの、それを補って余りあるほどの独創性と熱量、そして忘れがたい強烈な読書体験を与えてくれる作品です。特に、その圧倒的な画力と、常識を打ち破る物語のスケール感には、作者の並々ならぬ才能と野心を感じずにはいられません。

完璧な完成度を誇る優等生ではありませんが、多少の粗削りさを含めてもなお、読む者の心に深く刻まれる「未完の傑作」としてのポテンシャルを秘めた一作だと考えます。ありきたりな展開に飽きてしまった方、そして知的な刺激を求める方には、ぜひ一度この混沌の世界に触れてみていただきたいです。


Q&A・用語解説【疑問解決】

「BABEL」の世界観を読み解く用語解説

南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)

江戸時代後期に曲亭馬琴によって書かれた、日本の伝奇小説の金字塔です。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の玉を持つ八犬士の活躍を描いた壮大な作品で、「BABEL」はこの古典を原作としながら、大胆な再解釈を加えています。

八犬士(はっけんし)

伏姫と霊犬・八房の因縁によって生まれ、それぞれが霊的な力を持つ「宝珠」に選ばれた八人の戦士たちの総称です。本作では、主人公の犬塚信乃をはじめ、個性豊かな面々が運命に導かれて集結し、強大な悪に立ち向かいます。

宝珠(ほうじゅ)

八犬士がそれぞれ所有する、不思議な力が宿った霊的な珠です。持ち主が窮地に陥った際に輝きを放ち、人知を超えた能力を発揮させます。物語の全てのきっかけとなる、非常に重要なキーアイテムです。

村雨丸(むらさめまる)

主人公・犬塚信乃が手にする妖刀。刀身から常に雫がしたたるほど濡れており、その切れ味は凄まじく、数々の死線を切り開きます。犬塚家に代々伝わる家宝であり、信乃の戦いを象徴する刀です。

悪魔・死人(しびと)

本作における犬士たちの主な敵。玉梓や織田信長らが操る、西洋由来の強力な「悪魔」と、その力によって生み出される、脳を破壊しない限り動き続ける「死人(ゾンビ)」の軍勢が、犬士たちの前に立ちはだかります。

千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)

物語冒頭で、僧侶のゝ大(ちゅうだい)と霊犬・八房(やつふさ)が挑んでいた天台宗の非常に過酷な修行。この修行を成し遂げたことで、八房は「神の狗」と呼ばれるほどの霊的な力を得ることになりました。

気になる疑問を解決!Q&Aコーナー

原作「南総里見八犬伝」を未読でも楽しめますか?

はい、問題なく楽しめます。本作は原作の骨子を借りていますが、ストーリー展開や敵の正体、そして結末に至るまで、ほとんどがオリジナルの大胆なアレンジで構成されています。むしろ、原作の知識がない方が、予測不能な展開を素直に楽しめるかもしれません。

グロテスクな描写はありますか?

はい、含まれます。悪魔との戦いや、「死人(ゾンビ)」が登場するため、首が飛んだり体が損壊したりといった、ハードで残酷な描写が随所に見られます。こうした表現が苦手な方は、少し注意が必要かもしれません。

作中に登場する「スプライト」とは何ですか?

「スプライト」は、本作と同じ石川優吾先生が描いた過去の作品名です。時間SFをテーマにした作品で、「BABEL」の中盤から、この「スプライト」の主要人物たちが登場し、物語に合流(クロスオーバー)します。知らなくても物語は追えますが、読んでおくとキャラクターの関係性や言動がより深く理解できます。

【⚠️ネタバレ注意】タイトルの「BABEL」には、どんな意味があるのですか?

ネタバレ注意:答えを見るにはここをタップ

作中で明確な説明はありませんが、複数の意味が込められていると考察できます。旧約聖書の「バベルの塔」の逸話が象徴するように、日本の神仏と西洋の悪魔、過去と未来といった、本来交わらない異質な価値観が衝突する本作の混沌とした状況そのものを表していると考えられます。

また、物語終盤に登場する巨大な「塔」が、魔王信長の神への挑戦の象徴として描かれており、タイトルと直結する重要な要素となっています。

【⚠️ネタバレ注意】結局、八犬士は全員揃うの?結末はどうなったの?

ネタバレ注意:答えを見るにはここをタップ

多くの方が気にされている点ですが、結論から言うと、物語の終盤は駆け足気味な展開となります。そのため、八犬士全員が揃って華々しく活躍する、という明確な描写には至りませんでした。

結末も、全ての謎が綺麗に解決される形ではなく、多くの解釈の余地を残して幕を閉じます。この点については読者の間で賛否が分かれており、不完全燃焼に感じたという声も少なくありません。ある意味、その「語り切らない」部分もまた、本作の大きな特徴と言えるかもしれません。

「BABEL」をお得に読むには?

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試し読みの利点:

  • 作品の世界観や魅力を事前に体験できます
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【注意喚起】漫画を読む際の違法サイト利用について

時折、「BABEL raw」といった検索を通じて、非公式なウェブサイトで漫画を閲覧しようとされる方がいらっしゃるようですが、これは非常に危険な行為ですので、絶対におやめください。

いわゆる海賊版サイトや、漫画のrawファイル(未加工データ)を違法にアップロード・ダウンロードする行為は、著作権法に違反します。利用者自身が法的な責任を問われる可能性があるだけでなく、これらのサイトにはウイルスやマルウェアが仕込まれている危険性が極めて高いのが実情です。安易にアクセスすることで、個人情報が盗まれたり、お使いのデバイスが故障したりする深刻な被害に繋がる恐れがあります。

そして何より、このような違法な閲覧は、作品を生み出してくださった作者の方々や、出版に関わる方々の正当な利益を奪い、新しい素晴らしい作品が生まれ続けるための創作活動そのものを脅かす行為に他なりません。作品への愛情や敬意を示すためにも、必ず正規の配信サービスや電子書籍ストアを通じて、安全に作品を楽しまれることを強くお願いいたします。

作者について

石川 優吾

(いしかわ ゆうご、1960年2月9日 – )

日本の漫画家。大阪府四條畷市出身。

農家の次男として生まれる。高校卒業後にいったん大学に入学するが、パチンコに明け暮れて、1年で中退。大学にはトランポリン(体育の授業)だけ参加した。

大学中退後、大阪デザイナー学院に入学する。デザイン会社に就職するも半年ほどで辞め、以前からの夢であった漫画を志す。新人賞に出し、うまく賞に引っかかったことがきっかけで漫画家になることができた。1982年、22歳の時に「革命ルート163」(「週刊ヤングジャンプ」新人増刊号)でデビュー。

他作品:湖底のひまわり春ウララスプライトカッパの飼い方

この深い読書体験を あなたにも

「BABEL」は、単なる娯楽として消費される作品ではありません。常識を疑い、歴史を再解釈し、異質なものが衝突する様を真正面から描き切った、知的な挑戦に満ちた一作です。その大胆すぎるがゆえのアンバランスさや、多くの謎を残した結末は、確かに万人におすすめできるものではないかもしれません。

しかし、だからこそ本作は、私たちの心に強烈な爪痕と、深い思索のきっかけを残していきます。「なぜ作者はこれほどのリスクを冒してまで、この表現を選んだのか」「この物語が本当に伝えたかったことは何だったのか」。読み終えた後、答えを探し、自分なりの解釈を組み立てていくプロセスそのものが、本作が与えてくれる唯一無二の「深い読書体験」なのだと感じます。

私自身、この作品から受け取ったのは、完璧に計算された完成度よりも、既存の枠を壊してでも新しい何かを届けようとする、作者のすさまじいほどの情熱でした。その魂の熱量に触れられたことこそが、何よりの収穫だったと考えています。

もしあなたが、ただ綺麗なだけの物語に物足りなさを感じているのなら。そして、心揺さぶるほどの熱量と、長く深く考えさせられるような問いを求めているのなら。

ぜひご自身の目で、この混沌と輝きに満ちた世界を体験してみてください。

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