
宝石を差し出されても表情ひとつ変えない姫君が、壺の底で共食いを繰り返す毒蟲だけには、うっとりと目を細めます。「蟲愛づる姫君の結婚 ~後宮はぐれ姫の蠱毒と謎解き婚姻譚~」は、そんな李玲琳(り れいりん)が隣国の王のもとへ嫁ぎ、後宮に撒かれた毒と呪いを、自らの毒で解き明かしていく中華後宮ミステリーです。
ただしこの漫画には、読む前に知っておくべき事情がひとつあります。全4巻・第36話をもって連載が終了しており、物語は最も熱を帯びる場面の直前で途切れているのです。
この記事では、漫画版がどこまで描かれてなぜ止まったのか、続きを追うにはどうすればよいのかを整理したうえで、皇太后・夕蓮(ゆうれん)の狂った動機や、国王・鍠牙(こうが)を蝕む「不幸体質」の正体まで踏み込んでお伝えします。
先に結論 ー 漫画版の全4巻は、紙で揃えるのが確実です。
本作の電子版は、単行本(巻)単位での販売がすでに終了しています。電子書籍ストアで全4巻を買い揃えることはできません。漫画版を手元に置きたい方は、紙の単行本を探すことになります。
書店の店頭で全4巻を見つけるのは難しくなっているため、在庫が確認できて中古も選べるAmazonが最短の入手経路です。なお、漫画の続きにあたる原作小説は電子書籍で全12巻が配信中ですので、そちらは今日すぐ読み始められます。
「蟲愛づる姫君の結婚」あらすじ・ネタバレ
作品名:蟲愛づる姫君の結婚 ~後宮はぐれ姫の蠱毒と謎解き婚姻譚~
原作:宮野美嘉(キャラクター原案 ー 碧風羽)
漫画:楽楽(ネーム ー 小原愼司)
レーベル:ビッグコミックススペシャル(小学館)
ステータス:連載終了(中止)
単行本:既刊4巻
単話:第36話まで
連載媒体:やわらかスピリッツ
小説・ボイスコミックへ広がる「むしめづ」
本作の出発点は、小学館文庫キャラブン!から刊行された宮野美嘉先生の同名小説シリーズです。2019年6月に第1巻が発売され、シリーズは全12巻で完結しています。漫画版はそのコミカライズとして、2022年1月にやわらかスピリッツで連載を開始しました。
漫画で描かれたのは、おおむね小説第1巻に相当する範囲です。第36話で連載が終了した理由は作品の不振ではなく、作画担当者側の事情によるものと説明されています。物語としての評価と、連載が続かなかったことは切り離して考える必要があります。
音声メディアへの展開もあります。BSJapanextの番組「浪川&岡本 ボイコミ ラボ」内でボイスコミックが制作・放送され、李玲琳役を烏田麻衣さんが務めました。声が加わることで、玲琳の高慢さの奥にある静けさが立ち上がってきます。
毒を愛する姫君が、蛮国の王のもとへ嫁ぐまで
大陸で最も強大な斎(さい)帝国。その第十七皇女である李玲琳は、皇女たちのなかでも際立って美しい末姫でした。ところが彼女が心を寄せるのは、絹でも金でも人でもありません。壺のなかで百匹の毒蟲を殺し合わせ、最後の一匹から猛毒を得る蠱毒(こどく) ー その術を操る蠱師として、玲琳は毒に生の輝きを見出す風変わりな姫君だったわけです。
ある日、最愛の姉であり斎国の女帝でもある彩蘭(さいらん)が、玲琳に嫁入りを命じます。相手は新興国・魁(かい)の若き王、楊鍠牙。大国から迎えた花嫁が蟲を溺愛する蠱師だと知れ渡り、魁国の宮女たちは露骨に顔をしかめました。それでも玲琳は動じません。他人からどう思われようと、彼女の価値の尺度は最初から他人の側にないからです。
嫁ぎ先で玲琳を待っていたのは、歓迎ではなく不穏な気配でした。国王の命を狙う毒殺の噂が立ち、後宮には正体不明の病が広がっていきます。真っ先に疑われたのは、毒に最も詳しい新参の王妃 ー つまり玲琳自身でした。
そして玲琳は、この状況をむしろ好機として受け取ります。自分を害そうとする毒があるなら、それを研究材料にすればよい。彼女は蠱師としての知識だけを頼りに、後宮に潜む影を探り始めます。孤独な王と、常識の通じない姫。噛み合わないはずの二人が、毒を挟んで奇妙に噛み合っていく物語の始まりです。
王の呪い、後宮の病、そして「親友」の正体
【ネタバレ注意】深掘りあらすじを見るにはここをタップ
蠱師の姫、蛮国へ嫁ぐ ー ドン引きから始まった結婚生活(1巻)
斎帝国の第十七皇女・李玲琳は、姉である女帝・彩蘭の厳命により、新興国・魁国の若き王、楊鍠牙のもとへ政略結婚で嫁ぎます。大国から迎えた花嫁は美貌の姫君 ー のはずが、絹の衣裳にも宝石にも一瞥もくれず、輿入れの荷に毒蟲を詰めて運び込む蠱師でした。壺のなかで百匹の毒蟲を共食いさせ、生き残った一匹から猛毒を採る。その光景を目にした魁国の宮女たちは、玲琳を気味悪がって遠巻きにするようになります。しかし玲琳は他人の評価を測る物差しを最初から持っていないため、蔑まれても一切傷つきません。夫となった鍠牙もやはり、常に穏やかに微笑みながら、その笑顔の裏で誰ひとり信じていない男でした。周囲に災いを呼ぶ「不幸体質」に長く苛まれ、まともな眠りを奪われて心身が擦り切れかけていたのです。互いに壊れた二人の、噛み合わないはずの結婚生活が始まります。
解蟲薬と、初めての眠り ー 執着が芽生える夜(1〜2巻)
玲琳は夫の異常な消耗ぶりに、同情ではなく蠱師としての興味を抱きます。この苦痛が毒によるものなら、毒で解けるはずだ ー そう考えた彼女は、蟲の知識を総動員して独自の解蟲薬(かいちゅうやく)を調合しました。薬は鍠牙の発作を鎮め、彼に久方ぶりの安眠をもたらします。ここで鍠牙が惹かれたのは、玲琳の優しさではありません。彼の心の傷にも過去にも一切関心を示さず、ただ「解くべき毒」としてのみ自分に触れてくる、その徹底した無関心でした。誰もが自分を憐れむか怖れるかしてきた男にとって、玲琳の視線だけが呼吸のできる場所だったわけです。以降、鍠牙は妻が自分から離れることを断固として許さなくなり、口では「嫌いだ」「信用していない」と言い放ちながら、彼女なしでは眠れない身体になっていきます。愛と呼ぶには歪みすぎ、依存と切り捨てるには切実すぎる絆が、毒を挟んで固まっていきました。
後宮を覆う「蠱病」と、外交会談の毒殺未遂(2〜3巻)
穏やかとは言い難い日々が続くなか、魁国の後宮を正体不明の病が襲います。人々が次々と倒れていくこの病は「蠱病(こびょう)」と呼ばれ、明らかに蠱術による人為的なものでした。追い打ちをかけるように、斎国との外交会談の最中、鍠牙が鼠蠱を飲まされるという毒殺未遂が発生します。宮中で最も毒に近い場所にいる人物 ー つまり蠱師である玲琳が、真っ先に下手人として名指しされました。彼女は身の潔白を訴えて泣き縋ったりはしません。自分の蠱術が、こんな粗雑な仕掛けと同列に並べられたこと自体が我慢ならなかったからです。玲琳は侍女の葉歌(ようか)を伴い、自らの手で犯人を暴くための調査に踏み出します。誰が味方で誰が敵かわからない後宮で、葉歌だけは主人の奇行に文句を垂れながら、その一挙手一投足を淡々と記録し続けていました。
皇太后・楊夕蓮 ー 「愛するがゆえに傷つけたい」黒幕の正体(3〜4巻)
調査の糸をたぐった先で玲琳が突き当たったのは、それまで唯一まともに言葉を交わせる相手だと感じていた人物でした。鍠牙の実母にして魁国の皇太后、楊夕蓮です。老若男女はおろか蟲さえも惹きつける妖艶な美貌を持つ彼女こそが、後宮に蠱病を撒き、実の息子に呪いを植えつけた天性の蠱師でした。夕蓮の動機は権力欲でも復讐でもありません。愛するものを自分の手で傷つけたいという歪んだ情愛と、自分の縄張りである後宮で他人が蠱毒を使うことへの、ただの不快感です。そして鍠牙を長年苛んできた「不幸体質」の正体も、ここで明かされます。それは呪われた星の下に生まれたなどという話ではなく、息子を周囲から徹底的に孤立させ、母である自分にしか縋れないようにするため、幼少期から長期にわたって仕込まれた蠱術の呪いでした。玲琳は夫を救うためではなく、蠱師としての矜持をかけて、この化物のような義母と正面から向き合う決意を固めます。漫画版は、夕蓮の陰謀が全貌を現し、二人の蠱師の対決が始まろうとする、まさにその直前 ー 第36話をもって幕を下ろしました。
【ここから原作小説】決着と、毒で結ばれた夫婦(小説第1巻後半)
漫画版で描かれなかった対決の顛末は、原作小説の第1巻後半で読むことができます。玲琳は夕蓮が仕掛けた呪いを、話し合いでも赦しでもなく、自らの蠱術と毒の力で真正面から打ち破りました。激しい応酬の末に敗れた夕蓮は、療養という名目で幽閉されることになります。ただし彼女は改心したわけでも、力を失ったわけでもありません。その存在感は幽閉されてなお健在で、以降のシリーズにも重い影を落とし続けます。この一件を経て、玲琳と鍠牙は世間一般の夫婦が結ぶ愛情とはまるで異なる、毒と執着が絡み合った強固な絆を確立させました。互いの欠落を埋め合うのではなく、互いの毒を認め合うことで成立する関係 ー それがこの物語の出した答えです。
【ここから原作小説】侍女の裏切り、蠱毒の里、そして双子(小説第2巻以降)
小説シリーズはここから大きく広がっていきます。腹心だったはずの葉歌が、玲琳に「蠱師の力を打ち消す毒」を飲ませて姿を消し、彼女の正体が里の裏切り者を始末する暗殺者「森羅(しんら)」であったことが判明します。力を奪われた玲琳は激昂し、故郷である蠱毒の里へ葉歌を追って乗り込みました。同じ頃、一年前に盗賊に襲われて死んだはずの鍠牙の妹・累姫(るいひめ)が魁国へ生還します。夕蓮に瓜二つの顔ゆえに身代わりとして虐げられ続けた彼女は、自分を初めて人として扱った盗賊の頭・餓破那(がはな)と結託し、夕蓮への復讐を目論んでいました。時は流れ、玲琳と鍠牙のあいだには炎玲(えんれい)と火琳(かりん)という双子が生まれ、次代の騒動の中心へと躍り出ます。祖母・月夜(つくよ)から里長の座を継ぐ試練、牢を破った怪物「骸(むくろ)」、そして玲琳と彩蘭の長い確執の行方 ー 物語は全12巻をかけて決着を迎えます。
みさきガチ評価・徹底考察

- 他人の評価を物差しにしない玲琳という、既存の後宮ヒロイン像を裏切る主人公
- 「愛するがゆえに傷つけたい」という夕蓮の論理が、狂気のまま筋を通している構成
- 蟲と毒という忌避される題材を、華やかな中華後宮の絵で描き切る美術の力
- 漫画版が第36話で連載終了しており、夕蓮との対決が始まる直前で物語が途切れる
「みさきの総評」 ー 続きが読めない痛みごと、抱えて読む一作
物語の質もキャラクターの造形も申し分ありません。ただし漫画単体では完結しない未完作という事実を、点数に含めています。
誰も救われないのに、なぜ読み進めてしまうのか

(やわらかスピリッツ https://yawaspi.com/ladywholovedinsects/index.htmlより引用)
この作品には、読者が安心して感情を預けられる人物がひとりも出てきません。それでもページをめくる手が止まらないのは、登場人物たちが揃って自分の欲に正直だからです。ここでは漫画版で描かれた範囲を軸に、三つの視点から掘り下げてみます。
夕蓮の「愛」は、狂気ではなく一貫した論理
多くの読者が最も動揺するのは、皇太后・夕蓮の本性が明かされる場面です。彼女は権力を欲したわけでも、玲琳を憎んでいたわけでもありません。愛するものを自分の手で傷つけたい ー その一点だけで、実の息子に呪いを植え、後宮に病を撒きました。
ここで見落とされがちなのは、夕蓮の行動に矛盾がひとつもないという事実です。彼女は最初から最後まで自分の欲望に忠実で、嘘をついていません。玲琳に向けていた柔らかな態度も、演技というより、同じ深さを覗ける相手への本物の親愛でした。だからこそ壊したくなる。この転倒した理屈は、倫理的には受け入れがたいのに、論理としては破綻していません。
鍠牙を蝕んできた「不幸体質」も、この論理の産物です。息子を周囲から孤立させ、母だけに縋らせるために仕込まれた呪い。夕蓮からすれば、それは息子を独占するための、極めて誠実な愛情表現だったことになります。
物語が読者に突きつけているのは、愛という言葉が誰かを守る保証にはならないという身も蓋もない事実です。夕蓮は例外的な怪物ではなく、愛の一形態を極限まで純化した姿として描かれています。
鍠牙が惹かれたのは、優しさではなく無関心だった
国王・鍠牙が玲琳に執着していく過程は、恋愛漫画の文法から完全に外れています。彼女は彼の過去を聞き出そうとせず、傷に寄り添おうともせず、ただ「解くべき毒」として彼を観察するだけでした。
鍠牙にとって、これは生まれて初めて与えられた呼吸のできる場所でした。周囲の人間は彼を憐れむか、怖れるか、利用するかのいずれかで、必ず彼の内面に手を伸ばしてきます。玲琳だけが伸ばしてこない。心に触れられないことが、この男にとっての救済だったわけです。
だから鍠牙は「嫌いだ」「信用していない」と口に出しながら、玲琳が離れることだけは絶対に許しません。矛盾しているようで、彼のなかでは筋が通っています。感情を差し出さない相手だからこそ、失えば代わりがいないからです。
そして玲琳の側も、鍠牙を人として愛しているわけではありません。彼女が愛するのは毒であり、鍠牙は彼女にとって最上級の毒を宿した観察対象でした。二人の関係は、互いの欠落を埋め合う補完ではなく、互いの異常さを認め合う承認によって成り立っています。読者が「ドツボ」と呼びながら離れられないのは、この危うい均衡に説得力があるからです。
女帝・彩蘭が妹を蛮国へ送り出した理由
漫画版で最後まで答えが示されないまま終わったのが、姉・彩蘭の真意です。斎帝国の女帝である彼女は、最愛の妹を蔑称で呼ばれる新興国へ嫁がせました。冷徹に妹を駒として盤上に置いたのか、それとも魁国の毒を解けるのは玲琳しかいないと見抜いて送り込んだのか。
作中の描写は、そのどちらとも読めるように意図的に均衡が保たれています。彩蘭が玲琳へ向ける執着は常軌を逸しており、単なる政略で妹を手放すとは考えにくい。一方で彼女は国益のためなら誰であろうと使い捨てる人物として描かれています。
興味深いのは、玲琳の側が姉の思惑をまるで気にしていない点です。命じられたから嫁いだ、それだけ。姉妹のあいだにある愛憎は、玲琳の無頓着さによって宙吊りにされたまま物語が進みます。
この空白は、漫画版で回収されることがありませんでした。彩蘭という人物が何を賭けて妹を差し出したのかを知るには、原作小説を追う必要があります。逆に言えば、漫画版4巻を読み終えた読者の胸に最も長く残る棘は、夕蓮の狂気ではなく、姉の読めない微笑みのほうかもしれません。
登場人物・キャラクター分析

主要キャラクター
李玲琳(り れいりん)

斎帝国の第十七皇女にして、隣国・魁国へ嫁いだ王妃です。黙っていれば絵から抜け出したような美貌の姫君ですが、宝石にも絹の衣裳にも一切心を動かされず、愛するのは毒蟲と、そこから生まれる蠱毒だけ。傲岸不遜で唯我独尊、興味のない相手の顔は覚えようともしません。ただし一度診た患者は決して死なせないという蠱師の矜持を持ち、後宮に渦巻く毒と呪いを、毒そのものを武器にして解き明かしていきます。守られる立場を最初から放棄した、極めて能動的なヒロインです。
楊鍠牙(よう こうが)

魁国の若き国王で、玲琳の夫にあたります。常に穏やかな笑みを絶やさない美しい青年ですが、その内側は過去の出来事によって深く損なわれており、人を信じることができません。周囲に災厄を呼び込む「不幸体質」に長く苦しめられ、心身ともに限界を迎えていたところへ、玲琳が調合した解蟲薬が届きます。自分の心を覗こうとせず、ただ毒として接してくる彼女に対し、鍠牙は歪んだ独占欲を募らせていきます。愛と呼ぶには危うく、しかし依存と切り捨てるには切実な感情が、この男の芯にあります。
楊夕蓮(よう ゆうれん)

鍠牙の実母であり、魁国の皇太后です。老いも若きも、人ならぬ蟲さえも惹きつける妖艶な美貌の持ち主。玲琳の前では友のように柔らかく振る舞いますが、その正体は天性の蠱師であり、物語における最大の障壁として立ちはだかります。「愛するからこそ、この手で傷つけたい」という論理で動くため、彼女の行動は倫理でも打算でも読み解けません。息子に呪いを植えつけ、後宮に病を撒く動機が「愛」であるという一点が、この作品を後宮ミステリーの枠から押し出しています。
李彩蘭(り さいらん)

玲琳の姉であり、斎帝国を統べる女帝です。国益のためであれば血を分けた妹すら駒として盤上に置く冷徹さを備えていますが、その一方で玲琳への執着は常軌を逸しています。妹を蛮国と蔑まれる魁国へ嫁がせた張本人でありながら、その真意は物語の背後に伏せられたまま。読者が最も判断に迷う人物であり、彼女の思惑を測りかねる感覚こそが、序盤の不穏さを支えています。
葉歌(ようか)

斎国時代から玲琳に付き従う腹心の侍女です。口が悪く、主人の奇行に容赦なく文句を投げますが、玲琳を観察し記録することを何よりの生きがいとしています。ただし彼女は単なる世話役ではありません。姉・彩蘭へ玲琳の動向を報告する役目を負い、さらに裏の顔として、掟を破った蠱師を始末する暗殺者「森羅」の名を持ちます。物語が進むほど、この侍女の立ち位置は読者を落ち着かなくさせていきます。
脇を固める重要人物たち
累姫(るいひめ)
鍠牙の妹にあたる魁国の王女です。母である夕蓮と瓜二つの顔を持って生まれたために、伯父の家で夕蓮の身代わりとして長く虐げられ、心を深く病みました。癇癪を起こせば手も足も出る荒々しさの裏に、誰にも人として扱われなかった歳月が沈んでいます。漫画版では登場せず、原作小説の第2巻以降で物語の中心に躍り出る人物です。
餓破那(がはな)
盗賊たちを率いる頭目で、夕蓮によって家族を奪われた過去を持ちます。粗野な男ですが、素性を知らぬまま拾った累姫を、王女でも夕蓮の写し身でもなく、ひとりの人間として遇しました。累姫の復讐心を否定せず受け止め、ともに歩む道を選びます。こちらも原作小説側の人物です。
月夜(つくよ)
玲琳の祖母であり、蠱毒の里を束ねる里長を務める老女です。里に伝わる掟と、代々受け継がれてきた特別な蠱を厳格に守り続けています。孫娘に次の里長としての資格を問い、過酷な試練を課す立場にあります。原作小説の終盤で物語の鍵を握る人物であり、漫画版では里そのものが描かれるところまで到達していません。
胡蝶(こちょう)
玲琳の母であり、かつて斎国の後宮に身を置いた蠱師です。物語が始まる時点ですでに亡くなっていますが、娘を最強の蠱師に育て上げるためなら手段を選ばなかった女で、死してなお罠を残すほどの執念と先読みの力を備えていました。玲琳の常軌を逸した価値観がどこから来たのかを説明する存在といえます。
炎玲(えんれい)
玲琳と鍠牙のあいだに生まれた息子です。強引で人を惹きつける性質を持ち、両親と祖母・夕蓮の血を色濃く受け継いだ傑物として、周囲から怖れ混じりに見つめられています。原作小説の後半で、蠱毒の里を揺るがす騒動に独自の手で介入します。
火琳(かりん)
炎玲と双子の姉妹にあたる魁国の王女です。両親の才能を受け継ぎながらも、一族のなかでは最も常識的な感覚を保った、ませたところのある少女に育ちました。狂気に呑まれた存在に本当の名を思い出させる役割を担います。こちらも原作小説側の登場人物です。
譲玄(じょうげん)
魁国の学者で、鍠牙が生涯でただ一人心から尊敬した学問の師です。すでに故人ですが、彼が世を去った年齢が、後年ある呪いを解くための重要な手がかりとして浮かび上がります。漫画版の範囲では名前が示される程度にとどまる人物です。
「疲れる」という感想が、そのまま褒め言葉になる作品
本作に寄せられた声を並べると、称賛と拒絶が同じ場所を指しているのがわかります。読者を惹きつけている要素と、読者を消耗させている要素が、まったく同一です。
傲岸不遜な姫君に、なぜか惚れ込んでしまう
最も多く挙がるのが、玲琳という主人公への賛辞です。他人からどう見られようと意に介さず、自分の愛する毒蟲だけを見つめて生きる。一度診た患者は絶対に死なせないという蠱師の矜持を、誰に褒められるためでもなく貫き通す。その姿勢を「格好いい」「清々しい」と受け止める読者が目立ちます。夫に向かって平然と「お前」と呼びかける態度に最初は面食らいながら、読み進めるうちに愛おしく思えてきた、という感想も少なくありません。
鍠牙との関係についても熱量の高い声が集まっています。「嫌いだ」「信用していない」と口にしながら、玲琳が自分から離れることだけは断固として拒む ー その矛盾を「もう骨抜きではないか」と楽しむ読み方です。寝ぼけたまま妻に甘える場面を挙げて悶える声もありました。
ストーリーの推進力も評価されています。誰が犯人で誰が裏切るのか、あの人物は信じてよいのか。ミステリー小説を読むような緊張が途切れず、テンポの良さから一気読みしてしまったという声が並びます。虫が苦手でも物語のなかの蟲は不快ではなかった、という報告が複数見られるのも、この作品の間口を示しています。
「全員病んでいて読むのに疲れる」という正直な悲鳴
一方で、消耗を訴える声も確かに存在します。まともな人間が名前のないモブくらいしかいない、会話が成立しないので何でもありに感じる、じわじわ毒が効いてくるように体力を持っていかれる ー こうした感想は決して少数派ではありません。ただしその多くは「面白いのに疲れる」「ある意味で中毒性が強い」という形で結ばれています。疲労と満足が同居しているわけです。
玲琳への共感のしづらさを挙げる読者もいます。人間離れした姫君なので感情の動きが追えない、賢い人物として提示されていたのに時折うろたえるのが気になった、という指摘です。これは彼女が「読者の代理人」として設計されていないことの裏返しで、感情移入ではなく観察を求めるタイプの主人公だと割り切ると、印象は変わってきます。
題材そのものへの生理的な抵抗も避けられません。毒蟲を作るために多くの蟲を犠牲にする玲琳の倫理観に引っかかった、という声もありました。漫画版の作画については、ヒーローの内面を描く大ゴマの迫力が物足りないという指摘も見られます。そして最も多く共有されている懸念が、第36話で連載が終わってしまったことによる消化不良です。作品が嫌われて打ち切られたのではないという事情を知ってなお、続きが漫画で読めない事実は重く残ります。
疑問を解消(Q&A)
読み始める前に引っかかりやすい点を、まとめてお答えします。連載終了の事情と、続きの追いかけ方が中心です。
みさき「蟲愛づる姫君の結婚」を一番お得に読む方法・まとめ
毒でしか繋がれない二人の、正しくない愛の話
宝石には目もくれず、壺のなかで殺し合う毒蟲にだけ微笑む姫君。安眠を与えてくれる妻に「嫌いだ」と言い放ちながら、離れることだけは許さない王。愛しているから傷つけたいと言って息子に呪いをかける母。この漫画に、読者が安心して寄りかかれる人物はひとりもいません。それでもページをめくる手が止まらないのは、彼ら全員が自分の欲望に嘘をついていないからです。
玲琳が格好いいのは、強いからでも正しいからでもありません。他人の物差しを一本も持っていないからです。蔑まれても傷つかず、疑われても弁明せず、ただ自分の矜持が汚されたことにだけ怒る。その徹底ぶりに触れていると、読み終えたとき、日頃どれだけ他人の評価を気にして生きていたかを思い知らされます。
漫画版は第36話、単行本4巻で連載を終えました。夕蓮との対決が始まろうとする、まさにその瞬間です。悔しさが残ることは否定しません。それでも、この4巻に触れる価値は十分にあります。そして続きが気になったなら、原作小説が全12巻すべての決着を用意して待っています。
漫画版は紙で揃えるのが確実です
現在、本作の電子版は単行本(巻)単位での販売が終了しており、電子書籍ストアで全4巻を買い揃えることはできません。漫画版を手元に置きたい場合は、紙の単行本を探すことになります。
書店の店頭で全4巻を見つけるのは難しくなっています。在庫状況が確認でき、中古も含めて選べるAmazonが最も確実です。連載終了という事情から、今後さらに入手しづらくなる可能性もあります。
続きを読むなら、原作小説は電子書籍ですぐ手に入ります
漫画で中断された物語の決着は、原作小説の第1巻後半で読めます。そしてこちらは電子書籍で全12巻が配信されており、今日この場で購入して続きを追うことが可能です。
夕蓮との対決、侍女・葉歌の裏切りと正体、蠱毒の里での試練、玲琳と鍠牙のあいだに生まれる双子の成長。漫画版が届かなかった場所は、すべて文章のなかにあります。紙で4巻を味わってから、電子で小説へ渡る ー この読み方が、いま本作を追いかける最も現実的な道筋です。
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みさき


