丸尾末広が描く「少女椿」は、1930年代の見世物小屋を舞台に、孤児の少女みどりの数奇な運命を描いた衝撃作。エログロ・怪奇的な表現と独特の世界観で、読者を魅了し続ける問題作。芸術性と残酷さが交錯する、マニアックな漫画ファン必読の一冊。
「少女椿」作品概要とストーリー
「少女椿」は、1981年8月号に掲載された同名の読切作品で、何度か改定され、2003年に発行された青林工藝舎による改訂版のコミック以後、再販されていません。
以下の方法で読むことができます
- 電子書籍:現在、WEBやアプリで読むことはできない。
- 紙の書籍:単行本は青林工藝舎による改訂版のみで、廃刊。中古市場を探す。
作品基本情報
タイトル:「少女椿」
マンガ:丸尾 末広
ジャンル:
エログロ漫画
怪奇漫画
サーカス・見世物小屋を舞台とした人間ドラマ
シュールレアリズム
ターゲット読者層:
成人向け(過激な描写を含むため)
マニアックな漫画ファン
丸尾末広のアート性の高い作品を楽しみたい読者
エログロ・怪奇的な表現に抵抗がない読者
独特の世界観や芸術性を求める読者
主要キャラクター
みどり
みどりは12歳の少女で、見世物小屋「赤猫座」で働いています。両親を亡くし孤児となった彼女は、おかっぱ頭が特徴的です。他の芸人たちにいじめられる立場にありますが、ワンダー正光に慕われるようになります。時に芸人たちを「ばけもの」と罵る一面も持っています。
ワンダー正光
ワンダー正光は小人症の中年男性で、タキシードを着た紳士的な外見をしています。花瓶の中に体を入れる奇術が得意で、みどりに気をかけ助手に抜擢します。しかし、みどりへの独占欲が徐々に強まっていきます。「小人」と呼ばれると激昂する傾向があります。
嵐 鯉治郎
嵐鯉治郎は見世物小屋「赤猫座」の親方です。背が低く、ちょびひげが特徴的で、小心者で常に悩んでいる様子が見られます。みどりを見世物小屋に引き込んだ張本人でもあります。
フタナリカナブン
フタナリカナブンは性別不詳の若者で、ポニーテールの髪型にサーカス少女の扮装をしています。明るく活発な性格で、軽業や火吹きなどの芸に長けています。親方の嵐鯉治郎に寵愛されている様子が描かれています。
鞭棄
鞭棄は火傷した顔を包帯で巻いており、両腕が欠損しています。足を使った弓打ちなどの曲芸が得意で、みどりをレイプしたという過去があります。
あらすじ
「少女椿」は、昭和13年(1938年)を舞台に展開する物語です。主人公のみどりは、12歳の少女で、両親を亡くして孤児となります。彼女は、見世物小屋「赤猫座」の親方である嵐鯉治郎に騙されて働くことになります。
赤猫座では、みどりは他の芸人たちからいじめられ、日々辛い思いをしています。ある日、小人症の手品師ワンダー正光が赤猫座にやってきます。正光は花瓶の中に体を入れる奇術が得意で、この芸によって赤猫座は大繁盛します。
正光はみどりに気を掛け、助手として抜擢します。みどりは正光を慕うようになりますが、同時に正光のみどりへの独占欲も強まっていきます。赤猫座の他の芸人たちとの関係が徐々に悪化していく中、正光は客から「小人」と呼ばれたことで激昂し、客に恐ろしい幻を見せて大パニックを引き起こします。
その後、正光はみどりを連れて東京へ向かう途中で突然刺されて死亡してしまいます。みどりは戻ってこない正光を探しますが見つからず、同じ道をぐるぐる回ることになります。そんな中、死んだはずの赤猫座の芸人たちが宴会を楽しんでいる幻覚を目にします。
最終的に、みどりは現実に一人取り残され、声を上げて泣くところで物語は幕を閉じます。この結末は、みどりの悲惨な運命と、彼女を取り巻く世界の残酷さを象徴しています。
見どころ
「少女椿」の見どころは、その独特な世界観と衝撃的なストーリー展開にある。昭和13年の見世物小屋を舞台に、孤児となった少女みどりの数奇な運命が描かれる。エログロ・怪奇的な表現と独特の世界観が、読者を強く引き付ける要素となっている。
主人公のみどりは、12歳という若さで過酷な運命に翻弄される。他の芸人たちからいじめられる立場にありながらも、時に彼らを「ばけもの」と罵る複雑な一面を持つ。この矛盾した性格描写が、みどりの人物像に深みを与えている。
ワンダー正光という謎めいた小人症の手品師の登場は、物語に大きな転換をもたらす。花瓶に入る奇術で人気を集める正光だが、みどりへの独占欲が徐々に強まっていく様子は、読者に不穏な空気を感じさせる。
丸尾末広の独特なアートスタイルは、この作品の大きな魅力の一つである。シュールレアリズムの要素を取り入れた描写は、物語の不気味さや異様さを視覚的に強調している。
物語のクライマックスでは、正光の突然の死と、みどりが見る幻覚のシーンが印象的だ。死んだはずの芸人たちの宴会という幻想的な場面は、みどりの精神状態の崩壊を象徴的に表現している。
最後に、みどりが一人取り残され泣き叫ぶ結末は、この作品の悲劇性を如実に表している。読者は、みどりの悲惨な運命と、彼女を取り巻く世界の残酷さに深い衝撃を受けることだろう
「少女椿」映画について
「少女椿」は、アニメ映画と実写映画の両方で映画化されています。
アニメ映画
アニメ映画「地下幻燈劇画 少女椿」は1992年に公開されました。この作品は、絵津久秋(原田浩)が演出・台本・作画・監督の4役をほぼ一人で手掛けた自主制作作品です。制作には4年もの歳月がかけられ、上映時には特殊な演出が施されました。
大々的な劇場上映という形でもなく、イベント上映的な形で紙吹雪やスモークといった演出を伴うゲリラ興行を実施していた作品であり、ソフト化もVHSが僅か流通したのみで、日本ではDVD化を果たしていません。
倫理的に、DVDやブルーレイ化は難しいでしょう…。
実写映画
実写映画は2017年に公開されました。原作の過激な内容を考慮し、舞台を「見世物小屋」から「サーカス小屋」に変更して制作されました。
原作の衝撃的な内容や独特の世界観を映像化する試みとして注目を集めました。
感想・考察
「少女椿」は、丸尾末広が描いた衝撃的なエログロ漫画作品として、独特の評価を得ている。ストーリーの構成は、1930年代の見世物小屋という特異な舞台設定から始まり、主人公みどりの悲惨な運命を通じて、人間の残酷さと社会の歪みを鋭く描き出している。
物語の展開は、みどりが見世物小屋で働き始めるところから、ワンダー正光との出会い、そして最終的な悲劇的結末まで、読者の予想を裏切る展開の連続である。特に、正光の突然の死と、みどりが見る幻覚のシーンは、物語のクライマックスとして非常に印象的だ。
キャラクターの描写においては、主人公みどりの複雑な心理描写が秀逸である。12歳という若さで過酷な運命に翻弄されながらも、時に他の芸人たちを「ばけもの」と罵る一面を持つみどりの姿は、読者に深い印象を与える。また、ワンダー正光のキャラクター性も興味深い。みどりに優しく接する一方で、徐々に強まる独占欲は、人間の持つ善悪両面の性質を巧みに表現している。
作品のテーマは、社会の底辺で生きる人々の苦悩と、人間の醜さを赤裸々に描き出すことにある。見世物小屋という閉鎖的な空間を通じて、社会の偏見や差別、そして人間の欲望の醜さを浮き彫りにしている。この作品が投げかける社会的メッセージは、読者に不快感を与えつつも、同時に深い考察を促す力を持っている。
「少女椿」が漫画業界に与えた影響は大きい。エログロ・怪奇的な表現と独特の世界観は、後続の作家たちに大きな影響を与え、いわゆる「アンダーグラウンド系」の漫画ジャンルの先駆けとなった。また、この作品は単に衝撃的な内容だけでなく、高い芸術性を併せ持つことで、漫画表現の可能性を大きく広げたと評価できる。
作品の強みは、その独特な世界観と丸尾末広の卓越したアートスタイルにある。シュールレアリズムの要素を取り入れた描写は、物語の不気味さや異様さを視覚的に強調し、読者の心に深く刻まれる印象を与える。一方で、作品の弱みとしては、その過激な描写ゆえに一般読者層への受け入れが難しい点が挙げられる。また、物語の展開が時に唐突で、読者を置いてけぼりにする可能性もある。
改善点としては、キャラクターの背景や動機をより詳細に描くことで、読者の理解と共感を深められる可能性がある。また、社会的メッセージをより明確に打ち出すことで、単なるショッキングな作品以上の意義を持たせることができるかもしれない。
総じて、「少女椿」は、その衝撃的な内容と高い芸術性によって、日本の漫画史に大きな足跡を残した作品であると評価できる。読者を選ぶ作品ではあるが、その独特の世界観と深いテーマ性は、今なお多くの読者や批評家を魅了し続けている。
読者の声
物語のシュールさと漫画絵表現としての丸尾末広の代表作
一見するとエログロナンセンスな作家に思われがちな丸尾末広。
もちろんこの作品にもグロテスクな描写がある。苦手な人は苦手かもしれない。
しかし、この本の本質はそこではない。
物語の悲劇性。絵のシュールさ。クライマックスの恐怖。
この3つに満たされた少女の悲しくて儚くて切なくて悲しいお話。「グランギニョール」
そしてワンダー正光の見せ場での言葉の真意を書き出す作者の能力はすばらしい。
私はクライマックスの光景(みどりの…)に恐怖した。あれほど自分の立っていた地面が崩れた瞬間を目にしたみどりの恐怖を絵に表した作者は天才かもしれない。
Amazonより引用
読みたかった
以前から作品は知っていましたが、機会がなく読めません出した。
昭和の雰囲気たっぷりの見世物小屋を舞台に繰り広がられる人間模様。
おどろおどろしいかと思うと、それだけではない世界が描かれています。
Amazonより引用
腕のない包帯男・鞭棄
鞭棄とみどりのからみが好き。
鞭棄がみどりに謝った時(ネタバレにならない程度に書きます)、その後のみどりの大人な表情がなんとも言えない!
子供だと思ってたのに!
良い意味で裏切られた(笑)。
読むと皆さんがみどりちゃんかわいいって言うのが分かりました。
丸尾先生の作品の中でも一番好きかも。
ちなみに
アニメ盤に比べるとグロさは少ないです。
Amazonより引用
「少女椿」をお得に読むには?
「少女椿」を無料・試し読み
「少女椿」は現在、WEB配信で無料試し読み、購入することはできません。
『漫画ピラニア』1981年8月号に掲載された同名の読切作品『哀切秘話 少女椿』(短編集『薔薇色ノ怪物』収録)を経て司書房の官能劇画誌『漫画エロス』で1983年8月号から1984年7月号まで全8話が連載。
番外編に前日譚を描いた『少女椿 水子編』(白夜書房『ヘイ!バディー』1984年2月号掲載、短編集『キンランドンス』収録)と『少女椿 予告編』(ビデオ出版『メロンCOMIC』1984年8月号掲載、単行本未収録)。
本作品は『月刊漫画ガロ』を発行する青林堂から1984年9月に単行本化されて以来、女子高生をはじめとする10代後半の多感な年代層を中心に密かな支持を得て読み継がれており、「ガロ系」と呼ばれる日本のオルタナティヴ・コミックの中でも評価や知名度がずば抜けて高い作品のひとつになっています
「少女椿」をお得に購入
単行本は青林工藝舎による改訂版のみ
「少女椿」を読むためには、2003年に発行された青林工藝舎による改訂版しかありません。
これも廃刊ですので、ヤフオクやメルカリなどで中古本を見つける必要があります。
作者について
丸尾 末広
まるお すえひろ
日本の漫画家、イラストレーター。男性。少年時代から「少年キング」「週刊少年マガジン」などに熱中し、漫画家を志すようになる。15歳で上京。製本会社などで働き、17歳のときに「週刊少年ジャンプ」に漫画を持ち込むが採用されず、一時は漫画を諦めた。1980年「エロス’81 劇画悦楽号2月号増刊」から『リボンの騎士』(収録当初のタイトルは『リボンの蛇少女』)でデビュー。その後、ポルノ漫画雑誌などで執筆。1982年『薔薇色の怪物』、1984年『少女椿』を青林堂から出版。耽美的でレトロな作風や、残酷でグロテスクな描写で人気を博す。その他の代表作に『無抵抗都市』『犬神博士』『ギチギチくん』『パノラマ島綺譚』など。イラストレーターとして多くの画集を刊行するほか、ザ・スターリンの「虫」(1983年)や、筋肉少女帯の「元祖高木ブー伝説」(1989年)などのレコードジャケットを手がける。また、1985~1986年には、劇団「東京グランギニョル」でポスター画を担当、役者としても活動した。
作者のSNSリンク
「少女椿」はどこで読める?総括
- 作者:丸尾末広
- コミックス情報:2003年に発行された青林工藝舎による改訂版が最新で、現在は廃刊
- 関連情報:1992年にアニメ映画化、2017年に実写映画化
- 読むには:現在、WEB配信や電子書籍での購入は不可能。中古市場で探す必要がある
- 作品の魅力:1930年代の見世物小屋を舞台にした独特な世界観、エログロ・怪奇的な表現、シュールレアリズムを取り入れた丸尾末広の独特なアートスタイル
- キャラクター:主人公みどりの複雑な心理描写、ワンダー正光の善悪両面の性質など、立体的なキャラクター描写
- テーマ性:社会の底辺で生きる人々の苦悩、人間の醜さ、社会の偏見や差別を鋭く描き出す
- ジャンルの新規性:エログロ漫画、怪奇漫画、シュールレアリズムを融合した独特のジャンル。成人向けで、マニアックな漫画ファンや丸尾末広のアート性の高い作品を楽しみたい読者に向いている
- 読者の感想:物語の悲劇性、絵のシュールさ、クライマックスの恐怖に魅了される意見が多い。一方で、グロテスクな描写が苦手な読者もいる
- 今後の展望:既に完結している作品であり、作者の独特のスタイルと内容の過激さから、続編や新たな展開の可能性は低いと考えられる